小説　舞の楽園

　　　　
　　　　　　　　　障害者の息子　　　＜　２９　＞
　　　　「本当に気持ちが良いわね。・・・ハイ、サンドイッチよ。ここにお茶を置きま
　すからね・・・」
　サンドイッチを彼に差し出し、お茶の入ったコップをベンチの上に置きました。
　アベック２人は興味深げにチラチラとこちらを見ています。
　私のことは男だとは思ってもみないようですが、母親にしては正人様の言葉使いが不
　自然だと感じているようです。
　正人様の手が不自由なのは見て分かっていると思いますが、私を呼ぶ「理佳」と言う
　言葉は余りにも自信に溢れているのです。まるで彼女に言う言葉なんです。
　幾ら私が若造りをして何時もよりは厚化粧をして女になってはいても、中年の女に
　しか見えないと思うのです。それが・・若い王子様にお仕えする奴隷女にように接し
　ているのですもの、不思議に思って当然ですよね・・・
　私は彼等の反応から、女としての装いに自信を持ちました。けれども、正人様にお
　仕えする態度は崩してはおりませんでした。
　『もう・・・如何ともなれ・・・』との心境です。

　　サンドイッチを食べ終わった頃です。
　もう１組の男女が崖の下の方から上がって来ましたが、真っすぐに車の方へと歩い
　て行ってしまいました。
　私は彼等と目が合いましたので目礼を返しましたが、このアベックの方は何の不信
　も抱かなかったようです。
　ベンチに座っていた若い男と女の人も、その後を追うように白いセリカに乗り込み
　ました。私が何気なく見ていると、助手席の乗り込んだ女性が私達の方を見詰めて
　何か言いました。男の人の方も私を見詰めております。「きっと・・あの人はあの
　若い子の出来ているのかも・・・」と言っていたのでしょう・・・か？
　私は変な勘繰りに妙な興奮を覚えていまして、オマ〇コから、ドクッと溢れたよ
　うに感じてしまいました。
　しかし、正人様の世間の噂などは気にしていらしゃると云った堂々たる態度には
　感服してしまいました。
　「わたしも・・・そうしなければいけないわ・・・」と呟いております。

　　　（　１３　）初のモーテル
　　それから海沿いの道を暫く走りました。コンビニで飲み物を購入して、私達は
　モーテルに入りました。
　モーテルなんて私は入ったことが無くて、ドキドキしながらハンドルを切ったの
　です。そのモーテルは車で各個の駐車場へ乗り入れて後で清算する仕組みになっ
　ていました。
　［良く出来ているなぁ・・・ここに鏡があるぞ。あっ、天井も鏡になっている！］
　お部屋に入ると若い彼は入ったことのないモーテルの仕組みに驚いています。
　私も玄関の扉では無い方の扉を開けますと、そこは大きな鏡のある脱衣所になっ
　ております。鏡の前には清潔そうなタオルが２組置いてありました。
　浴室の折り戸を開きますと、広い浴室です。深紅の浴槽は２人で入るには十分な
　広さです。
　「お風呂、入れますわよ・・・」（続く）