小説 舞の楽園 ( 緑色のコウモリ傘 )
- 2017/09/30
- 18:08
緑色のコウモリ傘 -1
俺の会社は地下鉄の駅から15分ぐらい歩いたところにあるビルにある
小さな会社だ。
その日はちょっと残業して、帰ろうと思って会社の入っているビルの玄関
先まで来たんだ。その時にドシャ降りの雨が降ってきた。
5時の定時に帰えっていたら、雨は降ってはいなかったのに・・と、思っ
たがもう遅い。
今朝の天気予報は・・・聞いていなかった。ついていないな、と思いなが
ら、その玄関先で降りしきる雨をぼんやりと見ていた。
「傘、持ってこなかったの?」
失敗したなと後悔していたら、ふいに後ろから声を掛けられたんだ。
会社の人ではないなと思いながら振り返ると、彼だコウモリ傘を手にして
立っていたんだ。会社が入っている同じビルの何と言う会社だか知らない
が、2階のフロアーの会社に勤務している男だった、
勿論、名前も所属している部署も知らないが、昼飯を食べに外へ出ると彼
も同僚の共に表に出てきて、目だけで挨拶をする程度だったが顔は知って
いた。
年は俺よりも2つ、3つ上だろう。小柄であったがピシッとスーツを決め
ているところは、俺の基準からすると線は細いがなかなかいい男の部類に
はいる。
「んっ?、ああ天気予報を見て来ればよかった!寝坊しちゃてね」
彼に声を掛けられるのは初めてだった。苦笑いしながら俺は答えていた。
「はい!」
持っていたコウモリ傘をさわやかな笑顔とともにいきなり俺に渡して、土
砂降りの雨の中を彼は走って帰って行った。
「えっ・・・?」
唐突過ぎて、俺は差し出された傘を思わず受け取っていたのだ。
なにしろ突然のことで、直ぐには動けずにいる俺は、雨に煙るビルの谷間を
全力で駆けてゆく彼の姿を見送ることしか出来なかった。
「マジかよ。冗談だろ!」
俺は彼の姿が見えなくなってから、我に帰ってそう呟いていたがもう遅かっ
た。
{この土砂降りの雨の中では、彼はずぶ濡れになっただろうなあ・・}
そう思ったが、俺にはどうしょうもない。彼が親切に渡してくれた傘をさ
して帰宅したのだ。もちろんのこと、彼には感謝しながらだ・・。
その明るい緑色のコウモリ傘は、いかにも彼に似合っているような気がし
ていた。
次の日傘を持って、俺は同じビルの2階にある彼の会社を訪ねた。
「チーフ、お客様ですよ」
応接に出た比較的可愛い事務の女の子が後ろを振り向いてそう言うと、机
から立ち上がった彼が俺を見て笑顔を見せた。
俺はその爽やかな笑顔に、何故だか分からないが惹き付けられるものを感
じて、「おやっ」と思ったのだ。
彼の背広は昨日の紺色の背広ではなく、明るい空色の背広だった。{昨日の
雨に濡れてしまったからだ・・}と俺は思った。(続く)
俺の会社は地下鉄の駅から15分ぐらい歩いたところにあるビルにある
小さな会社だ。
その日はちょっと残業して、帰ろうと思って会社の入っているビルの玄関
先まで来たんだ。その時にドシャ降りの雨が降ってきた。
5時の定時に帰えっていたら、雨は降ってはいなかったのに・・と、思っ
たがもう遅い。
今朝の天気予報は・・・聞いていなかった。ついていないな、と思いなが
ら、その玄関先で降りしきる雨をぼんやりと見ていた。
「傘、持ってこなかったの?」
失敗したなと後悔していたら、ふいに後ろから声を掛けられたんだ。
会社の人ではないなと思いながら振り返ると、彼だコウモリ傘を手にして
立っていたんだ。会社が入っている同じビルの何と言う会社だか知らない
が、2階のフロアーの会社に勤務している男だった、
勿論、名前も所属している部署も知らないが、昼飯を食べに外へ出ると彼
も同僚の共に表に出てきて、目だけで挨拶をする程度だったが顔は知って
いた。
年は俺よりも2つ、3つ上だろう。小柄であったがピシッとスーツを決め
ているところは、俺の基準からすると線は細いがなかなかいい男の部類に
はいる。
「んっ?、ああ天気予報を見て来ればよかった!寝坊しちゃてね」
彼に声を掛けられるのは初めてだった。苦笑いしながら俺は答えていた。
「はい!」
持っていたコウモリ傘をさわやかな笑顔とともにいきなり俺に渡して、土
砂降りの雨の中を彼は走って帰って行った。
「えっ・・・?」
唐突過ぎて、俺は差し出された傘を思わず受け取っていたのだ。
なにしろ突然のことで、直ぐには動けずにいる俺は、雨に煙るビルの谷間を
全力で駆けてゆく彼の姿を見送ることしか出来なかった。
「マジかよ。冗談だろ!」
俺は彼の姿が見えなくなってから、我に帰ってそう呟いていたがもう遅かっ
た。
{この土砂降りの雨の中では、彼はずぶ濡れになっただろうなあ・・}
そう思ったが、俺にはどうしょうもない。彼が親切に渡してくれた傘をさ
して帰宅したのだ。もちろんのこと、彼には感謝しながらだ・・。
その明るい緑色のコウモリ傘は、いかにも彼に似合っているような気がし
ていた。
次の日傘を持って、俺は同じビルの2階にある彼の会社を訪ねた。
「チーフ、お客様ですよ」
応接に出た比較的可愛い事務の女の子が後ろを振り向いてそう言うと、机
から立ち上がった彼が俺を見て笑顔を見せた。
俺はその爽やかな笑顔に、何故だか分からないが惹き付けられるものを感
じて、「おやっ」と思ったのだ。
彼の背広は昨日の紺色の背広ではなく、明るい空色の背広だった。{昨日の
雨に濡れてしまったからだ・・}と俺は思った。(続く)
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