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小説 舞の楽園 ( 転落の人生 )


         転 落 の 人 生   { 55 }
   「わたくしも社長さんが大好きよ。でも・・わたくしのような女を。いえ、女になり
 切っていない男を・・それも身を売っているような男を・・」
 そこまで言うと、涙が溢れて来て後が続かないのです。
 悲しくってではありません。嬉しくってでも無いのです。なにか、もったいないと言う気
 持ちでした。
 今まで生きて来まして辛くて涙をしたことはたくさんありましたが、このような気持ちに
 なったことは1度もありません。涙が大量に出て来まして言葉に詰まってしまいました。
 でも・・でもなのです。
 私のような者は幸せになることが出来ない・・と思っていましたので、間違い言を聞いた
 と思うことにしました。
 「でも・・でも。そう言って下さるのは大変有難いことですけれど・・社長さんにご迷惑
 が掛かるわ。こんなオカマ男と一緒に暮らしていると知れたらば・・社長さんが非難を
 されてしまうわ・・」
『社長さんは一瞬の気の迷いをしていらっしゃるのだ・・』と思いました。『ここで
 甘えてしまったら、社長さんが気の迷いに気付いた時に、私は惨めになるわ・・』と考え
 たのです
 抱かれている涙のイッパイの顔を振って年上のお姉さんが弟を諭すように言いました。、

  「そんなこと・・俺の前では『オカマ男』なんて言わないでくれ・・俺は美子のこと
 を本当に女だと思っているんだ・・」
 ハンドバックから取り出したハンカチで顔を覆っている私の肩に両手を掛けて顔を覗き
 込み、ちょっと怒ったようにおっしゃっています。
 社長さんは私を男だとは考えていないようです。
 私はそれを聞いて、また激しく泣いてしまったのです。だって・・とっても嬉しかった
 のですもの・・
 「泣くなよ・・美子。ホラッ・・他人が見ているじゃないか。俺が美子を苛めていると
 思っているかも知れないぞ・・」
 泣いている私を持て余したのか、周囲を見回した彼は非常に困惑しているようです。で
 も・・ちょっぴり私を揶揄しておりました。
 顔を隠しているハンカチの隙間から駐車場の方を見ますと、中年の男女2組が呆れたよ
 うにこちらを見ていました。きっと遠目には男に降られかけた女が男に取り入っている
 見たいに写っているはずです。
 「ゴメンナサイ。余りにも嬉しくって・・。でも・・もう泣きませんわ・・」
 涙でお化粧が崩れてしまっている顔を、彼には絶対に見られたくはありません。
 「ちょっと・・お待ちいただいても宜しいかしら・・」
 そう言うと顔を隠したままに、駐車場の片隅にありますトイレへ急いだのです。

  その後、2人で夕食を食べてホテルへ戻りました。
 その夜も社長さんは泊まって下さって、とっても情熱的に私を愛してくれたのです。
 「双子の娘が東京の大学に行ったら、この高崎に来てくれるね・・?」
 彼の念押しとも取れる問いに、彼の好意を感じて私は頷いていました。
 「後5日後に、娘たちの下宿を決めるために又上京するんだ・・!その時に又、会
 ってくれるね・・」
 「その時に・・娘たちに紹介しようと思っているんだ!娘たちももう一端の女にな
 ったんだから、女房が死んで以来俺が如何云う生活を送って来たのかは知っている
 はずだ・・。娘たちも賛成してくれると思っているのだが・・」
 胸の中に顔を埋めていた私に社長さんは言うのです。私は彼の決意が固いことを知
 って、又泣いてしまいました。
 でも・・『娘さん達が、私が男だと知ったならば会ってくれるのかしら・・?』と
 思いました。
 「社長さん。無理にわたくしを娘さん達に会わせることはしないで下さいまし。わ
 たくしは誰も知らない日陰の身でも構いませんのよ・・」と言いますと、彼は「大
 丈夫でよ・・」と私を安心させてくれていました。(つづく)  
 
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