小説 舞の楽園 ( 転落の人生 )
- 2020/05/24
- 00:36
転 落 の 人 生 { 56 }
それから5日後、社長さんから私の携帯に連絡が入りました。
「今晩行くよ・・。もし構わなければ・・美子のところに泊めて欲しいのだが・・」
今まで、私は6帖とユニットバスと小さなキッチンが付いた下宿には、男の人を入れた
ことがありません。
結婚は女として憧れてはいますが、出来ないことは判っております。
しかし・・最愛の彼はもう他人ではありません。それに・・『社長さんも自分の生活を
私に垣間ですが見せたのですから、私も見せない訳には行かないわ・・』と考えたので
す。
「狭くって、汚たないところですが・・どうぞいらして下さいな・・」と返事をしま
した。
その夜、社長さんはお風呂に入って、私が購入して来ておいた男物のネルのパジャマを
着まして卓袱台に座り、晩酌をしています。
私は薄いピンクのネグリジェを羽織ってお酌をしながら、この3日間の出来事を聞いて
おりました。
「美子と別れてから家へ帰って、娘たちに言ったのだ・・」
社長さんは猪口の酒を一口に飲んでから言い出しました。
私は下を向いたままです。社長さんのおっしゃることは怖いのです。
『どうせ、別れて欲しい・・とおっしゃるのではないかしら・・』と考えておりまし
た。震えていました。
「娘たちも俺の話を聞いて驚いたようだ・・。全部話したんだ・・!」
「わたくしが・・あなたより10歳も年上の男だと言うことも・・ですか?」
お猪口にお酒を継ぎ足しながら、私の声は掠れていたと思います。手が震えて隠すこ
とが出来ませんでした。
「ああ、隠したいと思ったのだが・・いずれは判ってしまうと思って・・ね。知って
いることは全部話した・・!」
私はもう眸を瞑っております。『彼とお別れするくらいなら、死んだ方が増し・・だ
わ』と思っておりました。
「俺はお前達の母さんを愛していた。しかし・・死んでから5年も経て、俺も自
分の人生を歩みたいのだ・・。お前たちの母さんも判ってくれると思う・・」
「その人は見た目には男だとは思えない。とっても思いやりがあって、優しい人な
んだ・・!お袋とも合うと思うよ・・」
あっ。彼のお母様のことは書いてはいなかったですね。
彼は父親である前社長を10年も前に亡くして、若い時に会社を継ぎ、彼は申しませ
んでしたが苦労したようです。
家には75歳になるお母様がいらっしゃるそうです。
「お袋は腰を悪くしてほどんと出歩かないが、まだまだ元気だ・・」と言っていま
す。「しかし、お袋は俺のすることには・・絶対に反対はしない・・」とも言って
おります。(つづく)
スポンサーサイト