小説 舞の楽園 ( 転落の人生 )
- 2020/05/26
- 00:20
転 落 の 人 生 { 58 }
「娘たちは美子を家に入れることを賛成してくれたよ・・俺よりも年上だとはと
ても見えない・・と驚いてもいた」
彼はそう言って、私を喜ばせていました。
娘さん達と別れてから、ホテルを取ろうとする彼を押し留めて、私の下宿にもう1泊し
て頂くことにしたのです。
勿論その夜も、彼に2回も愛して頂いたのです。社長さん自身も驚くほど元気でした。
その翌日、社長さんと共に彼のお家を訪れたのです。娘さん達はまだ帰って来てはい
なく、東京が余程気に入った様子です。
高崎の郊外にある彼のお家は広いお屋敷でした。田舎の旧家で平屋建てでしたが、「昔は
下級武士の家だった・・」と彼は言っておりました。
彼のお母様は腰を悪くしているそうですがまだまだお元気で、私と会って下さいました。
キチンと着ものをお召しになったお母様ですが、気さくな方で優しい方です。なにより
も、私を女と認めて下さいましたことが喜びでした。
「明人も優しそうな良い方を見つけて来たんだね。近所付き合いで色々と大変なこと
もあるでしょうが・・ヨロシクね」
畳のお部屋で正座の私がご挨拶をしますと、お母様は言っております。
『彼は・・まだわたしが男であることを・・お母様に言ってはいないのかしら・・。そ
れから・・まるでお嫁に来るような言い方だわ。本当は嬉しいけれど・・』と考えてお
ります。
「お母様。わたくしは出来損ないの女でございますのよ。社長さんからお聞きになって
いらっしゃいませんこと・・」
赤くなりながらも、まず第1の疑問です。
「聞いていますよ。如何言う事情で女になったのかは聞いておりませんが、今は女にな
っているのでしょう・・明人が良い人だと言うならば、きっと良い人なんでしょう。わ
たしは反対しませんよ・・!宜しくお願いします」
キチンと正座をしたお母様は頭を下げるのです。
「お母様。社長さんはどのようにわたくしのことをお話なさったのか存じませんが、
お母様さえ認めて下さるならばでございますが・・わたくしをこのお家へお手伝いとし
て入ることをお許し下さいまし・・」
第2の疑問です。
社長さんの方を見ますと、ちょっと慌てたような彼の顔です。その顔には「話して無か
った・・」と言っていることがアリアリです。
「兎も角。宜しく頼むよ」
話が違っている・・と変な顔をしているお母様と言い出した私に向って、片手を上げて
拝むような仕草をしている社長さんです。
「この家の主は明人ですから・・明人がそれでいいと言えば、わたしは・・」
お母様はちょっぴり社長さんを睨んだようですが、私がこのお家に入ることに関しては
反対はしていませんでした。
「このような片端なわたくしでございますが、宜しくお願いいたします」
・・と頭を下げました。「後で・・社長さんはお母様に何か言われるのではないかしら・
・と案じておりました。(つづく)
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