小説 舞の楽園 ( 転落の人生 )
- 2020/05/27
- 00:31
転 落 の 人 生 { 59 }
「わたくしをお手伝いとして雇って頂いてありがとうございます。ご遠慮なさらずにご
用を申し付けていただきとうございます」
・・と言うことを忘れてはいません。
「しかし・・それじゃ・・」
社長さんの何か言いたげな、困った顔でした。
その夜社長さんは私を抱いた後、こんなことを申しています。
「美子。その社長さんと言うのは止めてくれないか・・・?もう娘達もお袋も認めたのだ
から・・俺の嫁さんだ!」
「社長さんなんて言われたら・・会社で仕事をしているような気分になる・・」
「明人・・と呼んでくれよ・・」
素裸で彼の胸に頭を乗せている私の長い髪の毛を梳りながら申しています。
「ハイ・明人さん・・」
「けれども・・夜だけですわよ。日中は・・お手伝いさんとして、扱って下さいな・・」
私みたいな半端な女が、このような社長さん1家の厚遇を受けていること自体が不思議
なのです。
私はこのお家のお手伝いさんとしての仕事を与えて貰えるだけで、もう充分に幸せなの
です。それに・・夜はこうして社長さん(いえもう明人さんです)明人さんの寵愛を受
けているだけで、私の心は何処かへ飛んで行ってしまいそうなのです。
これ以上の幸せは決して望みません。
『結婚は出来ないけれど、この人に一生就いて行きたいわ・・』と思いながら頷いてお
りました。
その夜は、明人さんの雄根にもう1度啼かされています。
次の日の朝、隣に寝ていらっしゃる明人さんの額に軽くキスをしましてから、洗面
所で軽く口紅を引いて私は台所に行きました。
台所ではもうお母様が朝食の支度をしております。
「オハヨウゴザイマス。わたくしもお手伝いさせて下さいませ・・。お手伝いとして
このお宅に参ったのですから・・」
「あらっ。お早う・・今日はいいのよ・・。あなたも疲れたでしょう?もっと寝ていて
も良かったのに・・」
私がご挨拶をすると、お母様はニッコリと笑っています。
「安心しましてユックリと眠れました。不慣れですけれど・・お手伝いをさせて下さい」
「それじゃぁ・・お願いしようかしら。5人分の食器を並べてくれる・・?」
夕べの内にお母様は明人さんと話し合ったようで、ワンピースの袖を捲っている私にエプ
ロンを渡してくれています。
「5人分?あらっ・・娘さん達はもうお帰りになっているのかしら・・?」
「美和と美加は夕べ遅かったらしいわよ。だから・・5人分ね。その戸棚にお茶碗とお椀
が入っているわよ。そう・・ついでに・・お皿もね」
お母様は気さくに、エプロンを着けている私に指示をでしてくれています。私が男だと
は考えてもいないようなお母様です。
私は暖か味を感じて涙ぐんでいました。(つづく)
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