小説 舞の楽園 ( 転落の人生 )
- 2020/05/27
- 23:57
転 落 の 人 生 { 60 }
「お箸をわたしが出すから・・箸置きをお願い!その下の引き出しに入っているわよ」
そう言われて戸棚の引き出しを開けますと、色の違うお箸が入っています。個人個人が違
ったお箸を使用しているようです。
『どれが・・明人さんのなのかしら・・?これも・・覚えなくちゃ・・』と思いながら脇
にある箸置きを取り出しました。
それをお盆に乗せ、台所と続き部屋になっています食卓へ運んでから、明人を起こしに行
きました。彼は朝が弱いようでまだ寝僕ています。しかし、私を抱きよせてキスをしてくれ
ました。
彼と一緒に食堂へ行くと、娘さん達は着替えて席に着いておりました。娘さん達は私を「
美子さん」と呼んでくれています。屈託はなさそうで私は安心しました。
それから3日後。明人さんの会社の若い人が4~5人トラックを出して下さって、娘さん
達の引っ越し荷物を運んでくれて、東京へ行ったその足で私のアパートの荷物を運んでくれ
る段取りが取られました。
私は今、綺麗に片付けが終わった下宿のお部屋に座って、運送のトラックが来るのを待っ
ております。
想えば、この20年間色々なことがあり過ぎました。私は最下層の女として過ごして
来ました。
あれもこれも・・静岡の営業所時代に、私のエバッタ鼻持ちならない態度と言動が原因
となって、部下にマゾオンナに落とされてしまったのです。
初めは部下の3人様に飼われて、その後獣姦の見世物女郎としてジョーさまと暮らして、
現在は夜のオカマとなって身を売ることになりました。
50を向かえたこの年になって、明人さんとお知り合いになって、やっと私も幸せを掴
めそうです。
明人さんや暖かな家族に出会って、私の荒んだ心も気持ちも氷が融けるように明るく柔
らかくなりはじめました。
人間と云う者は、荒ぶった心を持っていると、周りの人達も荒ぶってしまい、優しい心
を持てないものだ・・と言うことを初めて知りました。
私はこれを教訓として、これからの人生をどんなことがあろうとも、優しい気持ちで
正直に生きて行こうと思っております。
あっ・・明人さんの会社の人が私の荷物を運びに来たようです。
それでは・・ごきげんよう・・( 完 )
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