小説 舞の楽園 ( 孫の彼女になって1年 )
- 2020/08/19
- 23:45
孫の彼女になって1年 ( 29 )
お化粧も上手に出来るようになりまして、髪がボウイッシュなのを除けば、私はもう
男だとは判らなくなりました。綺麗にお化粧をすると、10歳は若返って見えます。
市の中心部にあるデパートに雄様の運転する車で連れて行って貰ったことがあります。
お店の若い女店員の方が「お母さん」と私を呼んでいました。
それを聞いて私は嬉しくて仕方がないのです。とても、年齢差が40もあるようには見
えません。
『もっと、もっと、若くなるようにお化粧が上手になって、若く見られたい・・・わ』と
思っております。
大学の夏休みが近づいた7月の始めでした。
バイトから帰った雄様は激しい腰の運動の後に、少しグロッキー気味になってしまった
私を胸の中に抱いて、「7月の中旬に旅行へ行きたいね・・・」と言い出したのです。
あっ、雄様は大学と私の家のちょうど中間にあるコンビニでバイトを始めたのです。5月
分と6月分のお給料を足して、私を連れて旅行する計画を立てていたらしいのです。
「10日から勤務のシフトが変わるんで、休みを貰った・・・」と言うのです。
「結婚式は出来ないけれど、新婚旅行だ・・・」
彼はテレ臭さそうにそう呟くと、全裸で横たわっている女性ホルモンの影響でここのと
ころメッキリと大きくなったと感じている私のお尻に、手を伸ばしていました。
「新婚旅行なんて・・・。いいの?こんなお婆ちゃんでも・・・。けれども・・うれしい
わ」
こんな初老の老人のしかも男である私でも、雄様は『愛している・・』と言ってくれて
いるのです。『たとえ結婚式はしなくとも、実質的には夫婦として暮らしていることを認
めて下さっているのだわ・・・』と思うとジーンと涙が滲んで来ました。
そして・・『雄様が本物の女性を好きになって私がお払い箱になるまで、雄様にお尽くし
いたしましょう・・』と考えました。
これは、私の本当の気持ちです。今でも変わらぬ本音なのです。
私の旦那様になった雄様は私の血を分けた孫なのです。孫の幸せを願わない祖父なんて
いません。ましては孫の雄様に彼女が出来て「結婚したい」と言い出されたら、黙って身
を引くのが当然だと思うのです。
その日から5日後の木曜日です。雄様の運転する車の助手席に私は座っています。旅行
の行き先は西伊豆です。
1昨年の暮れに運転免許を取って、毎日車で大学に通っている雄様の運転技術はもうベテ
ランの域に達しているようで、私は安心して助手席に座っているのです。
車は東北自動車道から首都高を通って東名に入っています。
『今日の旅行のためにとお弁当でも用意をしようかしら・・・』と思ったのですが、「そ
んなものは必要ない。海老名のパーキングエリアでも寄って何か旨い物でも食べようよ」
雄様はそうおっしゃるのです。
そのこともありまして、雄様の好きそうなお菓子とジュースだけを持参して車に乗り込み
ました。(続く)
スポンサーサイト