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小説 舞の楽園 ( 障害者の息子 )

    
         障害者の息子   < 27 >
   その日曜日は朝から快晴でお出かけ日和でした。
 朝から私は2人分のお弁当のサンドイッチを作り、飲み物を用意しています。
 私の心は、『こんな晴れた日に出かけるなんて・・女装していることがバレテしまう
 んじゃないかしら・・・』と云う不安と、『久しぶりに正人様と海を見に行くのよ。お
 天道様も祝福してくれているのだわ・・・』と云う考え方が同居しています。
 白い無毛の身体に 白いレースのショーツを履いて、上に友布のブラを着けまして、
 ブラウンの薄いパンストを履いて薄紫のキャミを着てから、スツールに腰を降ろし
 お化粧を始めました。
 もうお化粧をするようになってから2週間も過ぎましたので、お化粧にも戸惑う
 こともありません。付け睫毛もバッチリと決まりまして、何時もより若作りです。
 そして、お化粧が崩れないように注意をしながら薄い紫色のタンクトップを着て、
 白いミニのスカートです。
 少しブラウンの肩まである長い髪のウィッグを冠って、唇には真っ赤なルージュ
 を塗りました。

  鏡に全身を映していますと、正人様がお出掛けの準備を終えて傍にいらっしゃい
 ました。
 「理佳。良く似合っているよ。そうしていると恋人同士だね・・・」
 正人様はウィッグを梳かしてくれています。私は嬉しくなって彼に抱き付いてスベ
 スベの頬にチュッとキッスをしてしまいました。
 抱かれた彼から降ろされて彼の貌を見て見ますと、ホッペには唇の形に口紅が付い
 ていました。
 「あら・・・大変。口紅が付いてしまったわ・・・」
 『女ってこう云うことにも注意をしなければならないのね・・・』と思いながら、
 口紅の跡を拭き取っていました。
 しかし、私は女にしていただいた幸せを噛み締めていました。

  濃い茶色の3cmくらいのヒールのサンダルを履いて、玄関を出ました。
 私が作ったお弁当を入れた籠と、麦茶の入った水筒を彼が不自由な手で持ってくれ
 まして、私は小さなハンドバック1つです。
 玄関の鍵を掛けて車までの距離は、初めての外出の私にはとても長く感じられます。
 私の市営住宅は3棟ある中の1番南側の建物です。
 各棟の北側に駐車場がありまして、そこは南側の建物からは丸見えなのです。
 『わたしを知っているご近所の人に会ってしまったら、如何しましょう・・・』と
 思うと私の胸は早鐘を突いています。
 履きなれないハイヒールですが、つい小走りに階段を降りて車まで走ってしまい
 ました。

  「理佳。もっと・・・堂々とせい!背を伸ばして歩くんだ・・・」と正人様に
 注意をされてしまいました。
 『いつも男のわたしが乗っている白い軽自動車に、女の姿をしている女性が乗
 込むのを向かい側の人達は変に思っているんじゃないかしら・・・』と私は思っ
 て小さくなっていました。
ところが、私の男になった正人様は堂々としたものです。平然と車に乗り込みま
す。
その態度に私は羨ましいと云う気持ちと、世間のことは気にしないと誓って彼の
オンナになったのですからこれからは何を言われても臆せずに生きて行こうと
決心を新たにしたのです。
小心の私を恥じらっていました。(続く)
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Author:舞
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