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小説 舞の楽園 ( 障害者の息子 )

 1.
         障害者の息子   < 28 >
     ( 13 )初お披露目
   私の運転する白い軽は快調に走っています。1時間ほどで海の見える小さな展望台
 の駐車場に入りました。
 女になって、ハイヒールで車を運転するのは初めてですので緊張しました。私の軽自動
 車はノークラッチの車ですが、3cmほどの高さのヒールでも、初めてアクセルに足を
 置いた時には、『これで運転が出来るのでしょうかしら・・・』と不安になったもので
 す。
 けれども慣れて来ると窓を開けウィッグの長い髪を風に靡かせて、女になった爽快感を
 味わっています。
 正人様も上機嫌で、そんな私を興味深げに見ております。

  駐車場は車が6~7台ぐらい入ったら1杯になってしまうような展望台です。
 その展望台はベンチが3つ置かれていまして、車が2台停まっていました。陽が燦々と
 注いでいるベンチには、若い男の人と女のカップルが、並んでいる左側のベンチに座っ
 ていました。
 もう1台の車の方は、展望台から下へ降りてゆく道がありまして、降りて行ったようで
 見当たりませんでした。
 『こんなお日様の当たっているベンチへ行ったならば、わたしの女装があの人達にバレ
 てしまうわ・・・』と気後れして車外へ出ることが出来ない私です。
 
  正人様はドアーを開いて車外にでますと、「理佳。ちょっと早いけど、ここでお弁当
 を食べよう。それを持ってお出で!」私の男は堂々としたもので、大声で私を呼んで
 います。
 彼の堂々とした態度は、私が女装をしていることも、たとえ男だと思われたにしても、
 彼のオンナは年を取っている女だと思われたにせよ、何とも思っていない態度なのです。
 予想を裏切られた私には『そう思われるかも知れないわ、そう見られならば・・・如何
 しましょう・・・』と思っていた私が恥ずかしく仕方がありませんでした。
 『わたしは彼のオンナなのよ。そう云う恥じらいは捨てましょう・・・』と思ったの
 でうす。

   「ハ~イ」
 大声で返事をしまして、車外に立ちました。
 べンチに座って海の方を見ていた若いアベックは振り向いて私達の方を見ていますが、
もう彼等の視線は気にしませんでした。いえ、気にしないと言うことはありませんが、
彼等の視線を無視することにしたのです。
若いアベックは「理佳」と呼ばれて車外に出た私を注目しております。
きっと車外に出た私がもっと若い女性だと思っていたのでしょう。それが若造りに女装
をしていると言っても、中年のオバサンだったので驚いたようです。
チラチラと何度も私の方を注視しているのです。
 
 「ここ・・・いいですか?」
正人様は怖気ることなく彼等に近づいて、2人が座っているベンチの右側のベンチを指
しています。
「あっ、・・・どうぞ・・・」
男の方が言って、ちょっと腰を浮かべて彼女の方に寄りました。
「スミマセンネ。ここでお弁当を食べても宜しいかしら・・・」
私の声はチョッピリ低いけれど、その頃には男だとは思えないくらいに女の言葉でした。
「理佳。いい天気だね。気持ちが良い。あっ・・・あそこを見てご覧。船が見える。あ
れは汽船かなぁ・・・」
正人様はここにいる4人の中では1番年下だと言うのに、堂々とした態度です。ベンチ
へ座ると伸びをしております。
『もう男であることがバレたらバレたで仕方が無いわ・・・正人様のオンナに成り切り
ましょう・・・』と私は考えていました。(続く)


 
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