障害者の息子 < 39 >
「皆さん。ちょっと聞いて下さい」
始業の時間になると施設長さんが声を上げて、私を招きました。いよいよ女の私のお
披露目です。
「ここに居る飛田君は女性になってここに勤めることとなった。皆も飛田君を宜しく
見守ってやってくれないか・・・?」
施設長さんが硬い表情をしているでしょう私を紹介してくれました。
「今日から女性としてここにお勤めをします、飛田理佳と申します。理佳と呼んで下
さい。宜しくお願い申し上げます」
「皆さんももうご承知だと思いますが、わたくしには身体が不自由な息子がおります。
その息子が「女になってくれ!」と申すのでございます。わたくしは息子の言う通り
女になって生きることを決意しましたの・・・」
「これからは、男を捨てて、女性として生活をすることにいたしましたのよ・・・」
「女性としてお勤めすることについては、施設長さんにもお話をしてありますので・
・・・皆さんも宜しくお願いいたします・・・以前の男としてのお仕事にも支障が
ないように頑張りますので、どうぞ・・・わたくしに言い付けてくださいませ」
言い終わって深々と頭を下げました。
突然、経理を担当している唯一の市の職員であります川本さんが拍手をしたの
です。
「いいわ・・・女性だって、男性だって一緒よ。息子さんの為に女性になるなんて
素敵じゃない・・・」そう言ったのです。
他のパートさん達も「そうよ!立派だわ・・・なかなか出来ないことだわ・・・」
と拍手をしてくれたのです。
「ありがとうございます。精一杯頑張りますので、宜しくお引き立てのほどをお願
いいたします・・・」
皆様の温かい励ましの拍手に、私は涙が出て来まして、声を詰まらせたのです。
ほどんとのパートさん達は、男性に対して信頼感は持ってはいるようですが、仲
間意識と云う面では女性特有のものがあるようです。
私が自分から男性を捨てて、女性になったと云うことで、近親感を覚えたようです。
しかし中には、口の悪い噂話が好きな方もいまして、「あの人はアヌスを使って
息子を慰めているんだわ・・・」等と悪口を言う人もおりましたが、前にも書きま
した通り、近親相姦を黙認する土壌があったためにか、表立って私を非難する人は
おりませんでした。
こうして、私は女性として施設を辞めることなく、前の通りお勤めを続けることが
出来るようになりました。
けれども、私の女装姿を認めて下さった施設長さんと最初に拍手をして下さった川
本さんには感謝してもし切れないほどの恩義を感じています。
特に施設長さんは市の方にも私を庇って下さったようで、私は何かお礼をしたいと
思っております。(続く)
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