オトコとオンナの関係 ( 25 )
朝食が終わって、僕達と斎藤さんご夫婦は18階に降りて、そこの喫茶ルームにお
ります。
僕達と同じように斎藤さん達も同じ階にある集合場所に荷物を置いて、後は空港行きの
バスに乗るだけになっていました。
広い喫茶ルームの片隅のテーブルに僕達4人は座っています。僕の隣は早苗、斎藤さん
ご夫婦は対面です。
「驚いたわ・・早苗さんが男だなんて・・私は何て上品な美しい人だと、思っていたの
よ・・・」
「ネエ・・あなた。あなただって『綺麗な女の人だな・・』と言っていたじゃない・・」
「ウ~ン。そうだな・・!まさか・・男の人だとは・・思っても見なかったな・・」
注文したコーヒーが来ると、それこそ、穴が空くほど早苗を見ていた育子さんが、ご主
人を振り返って目を見合わせています。
この場所は周囲に他の人がいない、少しぐらいの声で話をしていても周りの人達には
聞こえない場所でした。
「スミマセン。もっと早く・・言おうと思っていたのですが・・斎藤様ご夫婦には
嫌われたくなくて・・スミマセン」
早苗は再び小さくなって、男の声だか女の声だか判別しかねる声で頭を下げています。
「いいのよ!女だって男だって・・わたし達は性別には拘っていないのだから・・ね。
あなたも・・そうでしょう・・?」
「う~んっ。それにしても・・昨日までは色っぽい早苗さんが・・今日の男の早苗さ
んと同一人物だなんて・・とても思えないなぁ・・」
育子さんの方が立ち直りが速いようで、「気にしてはいないのよ・・」と言ってくれ
ていますが、ご主人の方はまだ驚きが収まらないようです。
でも・・早苗を非難している口振りではありません。
「申訳ゴザイマセン」
「まあ。あなた。『色っぽい』だなんて・・!あなた、早苗さんと仲良くしたかったの
ね。ダメよ!わたしと言うものがありながら・・ねえ。恵介さん」
早苗が頭を下げると、斎藤さんが言った「色っぽい」と言う言葉を聞き留めた育子
さんが、聞いている人がいないのを確かめてから、ご主人を窘めています。
その言葉はいかにも永年連れ添った夫婦という感じでして、決して嫌味には聞こえま
せんでした。
僕はこのハグラカスような会話を聞いて『このご夫婦だったらば・・今はまだ早いと思う
けど・・僕達の秘密を明かしても大丈夫だ・・』と思ったのです。それは確信に近いもので
した。
僕も早苗も緊張していたので、フッと肩の荷が降りたような気持でした。『性別に拘らない
素敵な人達に出会ったものだ・・』と思うと同時に安心したのです。
しかしその後も、早苗はそこではあんまりおしゃべりをしませんでした。人目を気にし
ていたことも事実ですが・・
前日までと同様に、女言葉でしゃべってもよいのか、服装と同じ男言葉で話した方が良い
のか判断が着かないようでした。
男言葉か女言葉か判断が着かないような受け答えをする早苗を見て、斎藤さんは『自分と
年齢が近いようだ・・』と思ったようです。
そんなこともありまして、余り会話は盛り上がらなかったことも事実です。(つづく)
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