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万引き


        「万引き・1」
 (その1)
「あっ、万引きだ!いい年をこいて・・掴まえてやる!!」
警備員の貢は、最近取り付けられた万引き防止用のテレビのモニターを覗いて
いて独り言を云って、帽子を鷲掴みにすると警備室を飛び出している。
ここは郊外のホームセンター。万引きの多さに悲鳴を上げた店側が取り付けた
モニターに、40歳半ばの男性客がコートのポケットに商品を入れたところが
映し出されていた。
警備室を駆け出した貢は40歳。今は太ってしまったが、学生時代は柔道をやっ
ていて堂々たる体格の持ち主である。
その男性客がレジを通らずに店の外にでたところを、捕らえていた。
「ちょっとお待ちを・・・そのコートのポケットにある物の代金はお支払い
いただいておりませんね?」
声を掛けると、中年男は慌てて逃げようとしたが、貢が退路を断ったので観念
したようにガックリと肩を落としている。
「こちらへ来てください」
ポケットを押えた男に向かって、敬語は省かれていた。
男を店の奥にある警備室に連れ込んだ。
男は観念したのか、それとも、貢の押し出しに威圧されたのか、大人しく従っ
てくる。
「そこに腰掛けて・・・まず、盗った物をここに並べて・・」
貢の言葉からはお客様に対する敬語が完全に消え失せて、尋問する者の傲慢
さが出ていることはいがめない。事務所の片隅に置いた折り畳みの椅子を顎で
指した。
「・・・これだけです」
神妙になった中年男はコートのポケットの中味を取り出して、机の上に並べ
て下を向いた。
それは、4点。1本が600円の栄養剤のドリンクであった。
「こんな物を・・盗って・・」
「代金はお支払いいたします。いえ、払わせて下さい」
呆れている貢に、男は慌てたように言う。
「もうこれだけ?もっと、あるんじゃないの?」
貢の目は背広のポケットが膨らんでいるのを、見逃してはいない。
「もう、ありません・・これだけです。お金は払います」
男の目が泳いでいる。
「そのポッケにある物を出してよ!!」
ぞんざいな物言いになっている。
「これは違います。何で出さなければならないのですか?」

 男が弱々しく抗議をした。貢の態度が硬化した。
「舐めるんじゃなえよ。つべこべ言わずに出せよ!」
男の態度に貢はブチ切れ寸前となって、思わず凄んでしまっていた。
貢の怒の迫力に中年男は、急に神妙になっている。
「・・か、勘弁して下さい。魔が差したのです。堪忍してください」
そう口走ったかと思うと、椅子を立ち床に正座をして頭を下げたのだ。
そして、背広のポケットから、男性の下着2枚を取り出した。
「もっとあるだろう?全部だすんだ!!」
「もう金輪際ありません。それだけです。・・・本当にスミマセンでした」
「脱いで、裸になって貰おうか!もっと、隠しているんじゃないか?素直に盗
った物を出せばいいのに・・・」
中年男の図々しさには頭に来ていた。たとえ、オバサンと呼ばれる中年女には
「脱げ」なんてことは言えないが、相手は男である。
意地の悪い気持ちになっていたのである。
「えっ、裸に・・・それは・・・。勘弁してください。もう、本当に何も隠し
てはいませんから・・」
中年男は紅くなって、それから真っ青になって叫んでいる。
「裸になるんだよ。隠していないかどうか、調べるのがこちらの仕事なんだ
よ」
一層凄みを利かせて言いながら、立って警備室の内鍵を掛け、電気ストーブ
を開に捻っていた。
それを見た男は絶望的な眸を上げて貢の顔を見たが眸を伏せて、観念したの
か震える手でコートのボタンに手を掛けた。
「脱いだ物は全部この上に置け!早くしろ!!」
貢の口調はもう、全て命令口調である。もう、この男はお客ではなく取り調
べの被疑者であった。
「もうこれで、勘弁してください・・」
男は背広を脱いで机の上に置いて、男の脱いだコートのポケットに手を入れ
ている貢に言った。
「まだだ!まだ隠している物があるだろう?ズボンも脱いだらどうだ?」
貢は許すつもりなど無かった。脱いだ背広を取り上げて左右のポケットを
裏返しにしている。
内ポケットから財布と定期入れが出て来る。中から身分証明書をとりだした。
(続く)
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