小説 舞の楽園 (万引き )
- 2021/03/05
- 23:29
「万引き・4」
(その3)
「俺の後に就いて来い!」
貢の住んでいる会社の借り上げアパートは、裏通りを抜けて歩いて5分程のと
ころにあった。
貢は早足で歩く。一度も振り返っていない。
貢には、男が就いてくるものだと言う確信があった。これからのことを想像す
ると、貢の下半身はパンツの中で勃起している。
アパートは暗い木立の中にあり、2階建ての8戸ばかりの木造の建物だった。
2階の階段を登って、1番奥のアパートが貢のために会社が借りた部屋である。
「ここで、コートを脱げ!!部屋は2階の1番奥だ!」
2階に上る階段の下で立ち止まり、寒さに歯をガチガチ鳴らしながらも衣類の
入った紙袋を後生大事に抱えている男に言う。男の恭順性を見たいと思ったか
らだ。
「えっ。ここで・・・」
寒さで歯が合わない男は、廻らない舌でも驚いて叫ぶ。そして、キョロキョロ
と辺りを見回した。
アパートの周囲は木立のせいで光が届かず暗かったが、アパートの階段には
階段灯が点いている。
「・・・・」
貢は黙って頷いた。
貢に命令されたら「嫌だ」とは云えない弱みを握られている。しかし、コート
を着ているか、いないかでは、天と地ほどの違いがある。でも、この中年男に
とって貢の命令は絶対であった。
「はい・・」
薄暗がりのなかで、弱々しく返事をしている。暗いのが頼りだった。
コートを脱いで元のように素っ裸になった。一時的にであるが、寒さは感じな
かった。それよりも何よりも、丸裸になったことが男には怖かった。
一刻も早く部屋に辿り着きたいと切望したほどである。
持っていた紙袋と脱いだコートで前を隠して、男は急ぎ足で階段を登って
いる。
今度は、男の後ろから貢が昇った。
貢には男の白っぽい肉体が紅潮したいるのが、階段灯の光で見えた。
貢は気付いている。男の背中にもお尻にも、毛がほどんと生えていないと云う
ことに・・・そして、その白い身体が薄紅色に染まっていて、綺麗だと思った。
しばし見惚れたほどである。
男の少ない陰毛が蛍光灯の光の中でキラキラと光ってい、毛の無いフグリが
見えていた。でも、そのフグリは寒さのためか、滑稽なほど小さく縮こまって
いる。
階段を上って1番奥の部屋の前で男が足踏みをしている。毛の薄い下腹に、
可愛い包茎のオチ〇チンが白く揺れている。
ジャンバーのポケットから鍵を取り出して扉を開き、中に入るように貢は促
した。
全裸に剥かれた中年の男はホッとしたようにため息を吐いて、玄関に入って
いる。
貢のアパートは玄関と玄関に通じている4・5帖大のダイニングとその奥の
6畳の和室だけであった。
部屋の空気は淀んでいて、外よりも寒く感じられる。
玄関のスィッチを入れた後、男の胸に抱えている紙袋を取り上げた。丸裸の
男は全身に鳥肌が立って、歯が合っていない。(続く)
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