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小説 舞の楽園 ( 万引き )


         「万引き・5」
 「こっちへ来い。そこでは寒いだろう?今、ストーブを点けてやる!」
玄関で震えている男に向かって言い、奥の部屋にある電気ストーブを点けた。
奥の部屋には万年床が引きっぱなしになっており、その布団を踏んで電灯を点し
た。
男が背中を丸め、恥部を隠して近づいて来た。よほど寒いのであろう。
「この布団の上に座んな。座布団がないんだ!」
オドオドと震えている全裸の男の肩に手を掛けて座らせた。その肩先は氷のよう
に冷たかった。
<よく我慢をしたな。この寒い中を裸になって・・>と、思ったら、この中年男
が急にいじらしく感じられてきた。
男はストーブの前方の敷布団の上に、ストーブに背を向けて正座をしていた。
毛がまったく生えていない白い背中に炎の光が当たってとても綺麗だ。
照明が当たっている身体の前面は、真っ白で体毛も見えない太股の内側の三角
を造る部分に、薄い叢の上部と縮こまって皮を冠った小さいオチ〇チンが顔を
覗かせている。もう、男はそれを隠そうとはしていない。
貢はジャンパーのポケットから事務所で取り上げた身分証明書を取り出して、
布団の上に正座をしている男の前に胡坐をかいた。

「横村万(よろず)か。46歳。商社に勤めているお前が・・どうして万引きな
んかをするんだ?」
全裸で正座をして泣きそうな顔をした男の尋問を再開した。
「つい出来心なんです。悪気は無かったのです。もう、絶対にいたしません。
許して下さい」
丸裸に剥かれた中年男は座っていた布団の上から滑り降りると、畳に正座を
して必死になって頭を下げている。
男の白い背中が、さっきよりも近くなったストーブのヒーターに照らされて、
紅く燃えているようだった。
部屋の温度は上ってきた。
「あのホームセンターでは、お前のような万引きに値を上げてな。防犯に力を
入れ始めたんだよ。俺もお前のような万引き犯を捕らえて取調べをして、警察
に突き出すために雇われているんだ」
布団の上から滑り降りた男の背中から、ストーブを離してやった。火ぶくれが
しそうなほど近かったのだ。
「警察には言わないで下さい。通報されると私は会社にはいられません。家庭
も崩壊してしまいます。お金でしたら、幾らでもお支払いいたします。もう、
2度とこんな事はいたしません。許して下さい」
素っ裸のまま、男は顔も上げないで哀願をしている。
「そう言われてもなぁ・・こちらも仕事なんだ・・・。万引きは窃盗の罪に当
てるしなぁ・・」
「お願い致します。何でも致します。どんな要求にも従いますから・・警察
にだけは通報しないで下さい。お願いします」
再び泣き出してしまうのではないかと思われるように真剣な表情をして、男は
否、万は言った。
貢は困ったような顔をしながらも、内心はほくそえんでいた。その言葉を待
っていたのだ。
「何でもします」と、万引き犯の万が言わない限り、何も出来ないと思って
いたのだ。
「何でもする・・・か。本当に何でもするのか?」
小躍りしたい気持ちであったが、顔には渋面を作って言う。
「はい。致します。致しますから・・このことは内密にお願いいたします」
貢の対応が変わったことを敏感に察して、万は勢い込んで言っている。
「本当に何でもするんだな?俺も万引き犯を逃がしたとあっちゃぁクビにされ
てしまうからなぁ・・・」
万に約束をさせた。(続く)
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