粕谷整形外科病院
- 2021/04/03
- 23:53
粕谷整形外科病院 - < 2 >
深く院長の椅子に座った圭太は黒檀のテーブルの上の電話機を取り上げて内野孝を
呼んでいる。
内野孝は優秀なレントゲン技師で圭太が勤めていた信濃町の大学病院に勤務していたの
だが、圭太が大学病院を辞める時に、唯一引き抜いて来た人物である。
内野孝は直ぐに院長室の扉をノックして入って来た。
彼は一見痩身で、背丈は165cmしかないが、白衣の似合う白哲の美青年であった。
「お呼びでしょうか・・・?院長」
扉を丁寧に閉めて入って来るなり身体を45度に曲げてお辞儀をしている。病院の中で
は毎度慇懃な態度を崩していないが、SXEの時の彼の淫らな姿態を知っている圭太は
苦笑いを押さえることが出来ないのだ。
「孝子。俺はここのところが凝って仕方がないんだ。どうしてか、ちょっと診てくれ
ないか・・・?」
ワザとのように硬い表情で直立している彼に向かって、圭太は股間の膨らみを軽く叩い
ている。
圭太に「孝子」と呼ばれた孝は途端に白い顔をパッと紅に染め、「もう・・・」と言う膨
れた顔になった。けれども、院長を睨む眸は既にオンナの貌だった。
圭太は大学病院に副部長として勤めていた頃から内野孝を知っている。いや、「知って
いる」と云うのは間違いだ。「孝の肉体を熟知していた」と言い直すべきであろう。
圭太が孝を知ったのは、圭太が大学病院の副部長を任命された頃だったから、今から
4年ほど前のことだ。
{ ゲイバー潤子 }
4月も中頃のある日。美容整形の学会があった後、他の教授や先生達の誘いを断った
圭太は独りで新宿2丁目の外れにあるゲイバーに入ったのだ。
そのゲイバー『潤子』は圭太には初めての店であった。
そこで、1人の美女と出会ったのだ。
「いらっしゃいませ・・・」
圭太がその店に3人の男と女のカン高い声が聞こえて、50代半ばと見えるママさんと思
しき人が営業用の笑みを浮かべて近づいて来た。
ボックス席2つとカウンターの席が5つの明かりを落とした室内には、中年の男性2人と
若い一見ハンサムに見える男の3人連れが座っていた。
30代と思しきバーの女の格好をした男と客の全員が入って行った圭太の方を振り向いた。
きっと圭太を品定めしているのであろう・・・
「こちらさん。初めての方ですのね・・・どうぞ・・・」
キチンと着物を着たママが、男の発声であるが女のイントネーションの女言葉で、1番奥
のスツールを勧めていた。
圭太の座った席の後ろのボックスでは、明らかに男だと判るオカマさんが大げさなゼスチ
ャーで笑いを取っていた。
圭太はママが差し出したオシボリで手を拭いてから、ビールを注文している。(続く)
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