小説 舞の楽園 ( 粕谷整形外科病院 )
- 2021/05/06
- 23:00
粕谷整形外科病院 - < 34 >
{ 君枝への求婚 }
小1時間も時間が流れたであろう。玄関のブザーが鳴った。
圭太に呼び出された君枝が帰って来たのだ。この2ヶ月ほど3人が揃うのは珍しかった。
玄関の扉を開けた服を着ている孝子を見ても、君枝は何にも言わなかった。
帰りがけに圭太から内線電話で「話があるんだ・・・」と言われた君枝は、圭太が何を
言い出すのかは判らなかったが、『もうこう云った生活は終わりだわ・・・』と孝子同様
に覚悟を決めていた。
「今日は特別に話がある。これはプレイじゃない。真剣な話し合いだ!」
圭太は孝子と君枝を座らせると、背広の前をあわせて院長としての威厳を見せながら言い
だした。
「君枝看護師長は妊娠している・・・」
「わたしからお話をしますわ・・・」
君枝も居住まいを正して話し始めた。
「内野さんは知らないと思いますけれど。わたしは妊娠していますのよ。勿論、圭太
院長の子供よ・・・」
「今日の昼、院長室に呼ばれまして、そのことは院長には話しましたわ・あたしは如何
しても産みたいって・・・ね」
「けれども・・院長には迷惑をお掛けしない積りよ。ただし、子供が産まれた後も、お
勤めはさせて貰えないかしら・・・?この子の命は守って上げたいのよ」
考えに考え抜いた末の結論であろう、君枝は話し始めて一気に言っていた。最初の頃は
孝子に、最後のところは圭太にお願いしていた。
圭太はそれを聞いて『母は強し』だなと思っている。孝子は『君枝さんは当然のことを
言っている』と考えていた。
「僕が君枝女王様の・・橋立看護師長さんとお子様をを育てます。粕谷院長、僕に
橋立君枝看護師長を下さい・・・」
今まで黙って君枝の話を聞いていた孝子が突然、男言葉で憑かれたように言い出した。
「下さい・・・と、言っても・・・」
圭太は驚いてしまった。君枝も突然の言葉に声を失っている。
「じゃぁ、言い直します。僕と橋立看護師長を結婚させて下さい。お願いします。幸い
に粕谷医院長とは同じ血液型です。子供には惨めな思いをさせたくはありません」
「僕にも橋立看護師長が必要なのです。是非、お願いします」
孝子も病院内のレントゲン技師の内野孝に戻って、立ち上がり2人に頭を下げている。
女の肉体を知らない、いや身体の仕組みを知らない孝子ではあったが、1ヶ月以上前
から君枝女王様の様子が変だと思っていた、何か考え事をしているようだった。
君枝女王様は何もおっしゃらないが、お腹も少しではあるが膨らんでいるようだった。
今君枝の話を聞いていて、『この女王様のために、いや君枝看護師長のために、いや
産まれて来る子供のために、結婚するのが1番良い方法だ・・・』と思ったのだ。
孝子自身私生児として辛い子供の時を過ごした記憶が蘇っていた。
マゾの女奴隷になった自分を、職場に於いては以前のように接してくれる院長と君枝に
対しては恩儀を感じていた。
それに・・・この橋立看護師長が好きであることに気付いている孝子であった。(続く)
スポンサーサイト