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小説 舞の楽園 ( 或る人生 )


          或る人生     < 2 >
   まぁ・・お話が横道に逸れてしまいましたわね。
 あれは・・今から18年も前のことでございます。
 当時、わたくしは地方の高校を卒業いたしまして、東京の大学に入る積りでございまし
たが、頭が悪うございまして、大学に入学が出来ずに浪人生活を送る破目になってしま
ったのでございます。
 えっ・・「年齢が合わないのじゃないか・・」
 いいじゃございませんか・・女の年齢の3っつや4っつは・・
 
  あれは・・確か。5月の連休が始まるちょっと前だったと思います。
 都会の生活に憧れを抱いていたわたくしは新宿の伊勢丹の裏通りをもの珍しげに歩い
ていた時でございます。
 新宿はこの10年ほど・・行ってはいないので変ってしまったと思いますが、伊勢丹は
まだあるのでしょうかしら・・
 不意に曲がろうとしまして、後ろから来ました高級外車・・と思うのですが・・。
わたくしは車には不慣れなもので・・青い色をした外車と云うことしか解らないので
す・・
 
  その外車のバンパーの部分に接触してしまったのでございます。そのお車は歩く
速度よりユックリと進んでいたのでございます。
勿論、悪いのは裏通りをもの珍しげに歩いていて、横断歩道でも無いところを急に
飛び出したわたくしでございます。
運転手さんが蒼い顔をして降りて参りました。
ブツカッタ拍子に右脚が切れたようで、履いていました白いジーンズが血で見る見る赤く
染まって参りますのよ・・

 「すぐに・・病院に運びなさい・・!」
車の後部座席に座っていらっしゃった60代と思われる白髪のいかにも高級品と思わ
れるスーツを召した紳士が降りて参りまして、運転手さんに言いました。
運転手さんはわたくしを車に乗せて、近くの病院に連れて行って下さったのでございます
わたくしは「車を血でよごしてしまう・・」と固辞したのですが、病院に本当に担ぎ込ま
れてしまったのでございます。
その紳士の方は会議があるらしく車を降りられて、わたくしが後部座席に乗せられたので
ございます。
いえ・・骨は折れてはいませんでしたが、右足の骨に罅が入っていまして、裂傷も負って
おりましたので、その場で入院と云うことになったのです。

 当時、わたくしの実家には年の離れた兄が1人と下には妹が2人おりまして、わたくし
を東京に出して、大学生活ならば兎も角、浪人生活をさせることには、両親は反対でござ
いました。
きっと・・当時のわたくしには解らなかったのでございますが、お金にも余裕が無かった
のでございましょう・・。

 そんなわたくしでございましたので・・こんな立派な病院ではとても入院費は支払えな
い・・と思いまして、「傷の手当をして貰ったら、すぐに帰りたい・・」と申しました。
ところが・・その紳士の方がいらっしゃって、「こちらが悪いのだから、入院費用のこと
は心配しなくてもいいよ。傷が治るまでユックリとするがいいよ・・」と申して、謝罪
してお名刺を出されるのでございます。(つづく)
 
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