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小説 舞の楽園 ( 或る人生 )


          或る人生     < 3 >
   お名刺を拝見しますと、わたくしのような者でも知っておりますある有名な商事会社
 の会長さんでございました。
 それで・・わたくしも安心しまして、そのまま入院することとなりましたのでございます。
 わたくしが入りましたお部屋は、その病院でも最高級と思われる病室で、次の間が付いて
 おりました。そこには・・応接セットもあります。勿論、冷蔵庫や大きな机、椅子まで置
かれていました。
 その病室から比べると、見すぼらしい感じがする6帖1間の下宿には帰る気がしませんで
 した。

  入院しました翌日から、会長さんは毎日お昼頃になると、必ずお見舞いに来て下さい
 ましたのでございます。
 当時のわたくしは人見知りが激しかったのでございます。
 しかし・・会長さんは10年程前に亡くなったわたくしのお爺ちゃんに何故か感じが似て
 いるのでございます。
 いえ・・会長さんがわたくしのお爺ちゃんに似ているなんて言うと、会長さんに失礼です
 わ・・ね。でも・・優しい笑顔と「フムフム・・」と聞いて頷いて下さるところなんかは
 ソックリなんです。

  わたくしは・・直ぐに安心して、何でもお話しをするようになっておりましたんのよ・
・・
勿論、もっぱらお話をするのはわたくしの方でございまして、会長さんは聞き役でござい
ましたが・・でも、本当に会長さんとお話を致しますのは、楽しくってつい時間を忘れて
しまうほどでございました・・。
わたくしの幼かった頃のお話や、中学・高校時代のことや、わたくしの家のこと、現在の
下宿生活のお話まで、何でも喜んで聞いてくださいましたわ・・
その時に・・会長さんは学生時代にラクビーをされていたお話をして下さいました。
会長さんは家の父よりもズ~ッと年上なのですが、そのラクビーの所為で逞しいお身体を
していらっしゃるのだ・・と納得をしたのを、今でも覚えておりますことよ・・


  入院しましてから1週間目だったと記憶しておりますが、あれはたしか・・抜糸を
しました翌日だったと記憶していますが・・
何時もはお昼過ぎになると必ずいらして下さっていた会長さんが、その日はお見えになり
ませんでした。
けれども・・会長さんはお忙しい身なのだ・・急用が出来てしまって、今日は来られない
のだ・・と思いまして、寂しいのを我慢して、ベッドの上に大学受験のための参考書を
開いたのでございます。
それが・・何時の間にか、ウトウトと寝入ってしまったのでございます。

 どのくらいベッドに突っ伏していたのかは分からないのですが、唇に何かが触れたよう
な気がしてフッと眸を開けますと、わたくしの目の前に会長さんの笑顔があるのです。
「起こしてしまった・・ようだな。悪いことをしてしまったようだ・・な。あんまり
君が可愛いので・・つい・・」
会長さんはわたくしの眸を覗き込みながら言いました。ちょっぴり顔が赤かったようで
す・・(つづく)
 
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