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小説 舞の楽園 ( 或る人生 )


          或る人生     < 4 >
   「ううん。いらっしゃって下さったのですね・・。会長さんはもう来られないのでは
 ないかと思っていましたので・・嬉しい・・」
 喜びに目を輝かせて言いました。
 「可愛いよ・・!本当に・・可愛い。わしのものにしたいくらい可愛いのう・・」
 会長さんはそう言ってわたくしを抱き寄せて、わたくしの唇にご自分の唇を押し付けて激
 しく吸って来たのでございます。
 それは・・わたくしにとって、同性・異性を問わずに初めてのキッスでございました。
わたくしは驚いて、目を白黒させていたのではないかと思います。
 でも・・キッスと云うものが、こんなに甘く切ない気持ちにさせられると言うことを初め
 て知らされたのでございます。
 わたくしは目を閉じて、うっとりとして唇を任せておりました。

  「愛しているんだ・・!わしのものにならんか・・?お前を・・わしのものにしたいん
 だ・・」
 それは・・それは真剣なお声とお願いでした。
 わたくしは初めての口付けを受けた直後でございまして、ボーとする頭で『この会長さん
 が大好きなのだ・・。この会長さんだったらば・・会長さんのものになってもいい・・』
と 考えておりました。
 そして・・会長さんの優しい目を見て、コックリと頷いたのです。

  「そうか・・?わしのものになってくれるのか・・?出来れば・・女になって、わしに
 尽くしてはくれまいか・・?」
 「わしはお前を一目見た時から・・好きになってしまったのだ・・。男ではなく、女の
 お前に恋をしてしまったようだ・・わしは・・お前を女としか見えないんだ・・!」
 わたくしは本当に絶句をしてしまったのでございます。頭の中が真っ白になってしまった
 のでございます。
 「わしの望みを叶えてくれ・・!女になってわしを愛してはくれまいか・・?その代り、
 一生の面倒は見をさせて貰うよ・・!生活にも不自由はさせない・・よ」
大好きな会長さんが若者のように頬を赤く染めて、恋の告白をしているのを聞いたわたく
 しは『可愛い!この会長さんが・・可愛い・・』と不謹慎かも知れませんが思ったので
 ございます。

  『本当に男性が女性になることが出来るかしら・・もし、それが出来るならば・・女に
 なってもいいわ・・』と思いました。
 「この会長さんの望みを叶えて上げたい。会長さんのためだったらば何をされてもいい・
・」とまで考えていましたのよ・・。そして・・また頷いておりました。
「本当に・・えっ!本当に・・そう思ってくれるのかい・・?金持ちの爺さんを誑かす
積りじゃないのかい・・?」と言うご意見もございますようですが、その時のわたくし
は高校を出たばかりで、そんなことは考えられなかったのでございます。
謹厳そのものの会長さんが若者のように頬を染めて恋心を告白している様子に、心を奪
われたのかもしれません・・(つづく)
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Author:舞
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