小説 舞の楽園 ( 或る人生 )
- 2021/07/11
- 23:26
或る人生 < 39 >
ロープを全て解かれましても、丸裸で会長さんを抜かれたままの開いたアヌスを天井に
向けて、唯1つ自由になる首を振って涙を流していました。
そんなわたくしを可哀想だと思ったのかも知れませんが、林さんが毛布を掛けて下さいまし
た。
わたくしはその林さんの親切な心が、今でも頭に残っておりますのよ。
流石に奥様はわたくしと目を合わそうとはしませんでした。
それっきり、愛する会長さんとは2度とお目にかかることはございませんでした。
幸いなことに・・1流会社の会長さんが男であるわたくしの上で腹上死を遂げましたことは
ニュースにはならずに済みましたが、わたくしは2度とは会社にも行けませんでした。
会長さんのお葬式には黒のワンピースを着まして出席しようとしたのでございますが、会社
の同僚の皆さんがいらっしゃる受付までも行けませんでした。
だって・・わたくしには秘密が多すぎたのです・・もの・・
泣けて来まして・・お庭の樹の陰からそっと手を合わせることしか出来ませんでした。
最愛の方を失ったわたくしは、それからも何もする気力もございません。1日中、お部屋
に籠って泣いておりましたのでございますのよ・・
会長さんが亡くなられてから1週間が過ぎました。林さんがマンションに来られたのです。
マンションの権利書と退職金を持って来て下さったのです。
わたくしは驚きました。
住んでいるマンションはわたくしの名義になっているのでございます。
会長さんがわたくしにマンションを残して下さったことを知った時には、わたくしはまた
号泣してしまったのです。
退職金も2年余りお勤めしましたにとっては、多額と思えるような額でした。
わたくしは感極まって泣きながらも、林さんにお礼を申しておりました。
それから1か月程過ぎましたある晩のことです。
林さんが大分お酔いになって、わたくしのお部屋を訪れております。夜に訪ねていらしゃ
ったことも、お酔いになってわたくしのお部屋にいらしたことも今までにないことでした。
「どうぞ・・お入りになって下さいませ・・」
会長さんを亡くして1か月余りして、わたくしはそのショックから大分立ち直っていま
してやっと薄化粧もして、笑顔も見せるようにはなっておりました。
「どうしたのですか・・?林さんがお酔いになっているのを見るのは初めて・・よ」
会長さんと同様に大恩のあります林さんをお部屋に招き入れました。
「痩せたね・・!貞子さんも・・苦労したんだね・・」
ソファーに座って頂いて、お茶の支度をしまして、反対側のソファーに浅く斜めに膝を
揃えて座ったわたくしに林さんは声を掛けて来ました。
「ええ。会長さんが亡くなられてから・・色々ありましたから・・・。ずっと泣いており
ましたが・・もう大丈夫ですわ・・」
そう言いながらも、耐えていたものが噴き出したのでしょうか、また顔を覆って泣いて
しまっておりましたのでございます。(つづく)
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