小説 舞の楽園 ( 一目惚れ‥相思相愛 )
- 2021/08/02
- 23:34
一目惚れ・・相思相愛 { 11 }
「ううん。財産なんていらないわ・・。貴男の愛さえあれば・・貴男がわたしを
愛してくれたら・・」
「昌子。会社を辞めて貴男のお嫁さんになるわ・・」
昌子は前を見て言って、熊さんの左手にしがみ付いていた。昌子はその時に決心をした
のだ・・
「でも・・直ぐって云う訳には行かないわ・・。これから・・お化粧も、身嗜みもお勉
強して、完全な女として人前に出られるようになってから・・ね」
昌子はお化粧を施して、何処から見ても1人前の女として振る舞えるようになってから、
熊さんのところに嫁ぎたかったのである。
もしかしたら・・肉体を改造して女体になることも考えている。
「今日は俺の家へ来ないかい・・・散らかっていて汚い所だが・・な。下の店には
今日は誰もいないから・・」
2人の住んでいる街が近づいて来ると、ハンドツを握っている熊さんがオズオズと言い
出した。
いずれは熊さんのところに行く積りであったが、熊さんと同様に離れがたくなっていた
昌子は頷いている。
『熊さんが如何云うところに住んでいるのかしら・・』と云う興味もあった・・
「散らかっていて・・恥ずかしいのだが・・まぁ・・上がってくれよ・・?」
200坪ばかりの敷地に1部2階建ての家が熊さんのお店兼住宅だった。
1階は工務店になっているらしく、裏に階段があり2階が住宅になっていた。
普段日ならば、お店の従業員や労務者がいるところであろうが、今日は休みとあ
って誰も店にはいない。明かりも消えていた。
外階段を上がると玄関があり、熊さんのプライベートルームである。
「おじゃまいたします・・」
昌子は今は男の恰好をしているが、車の中での熊さんとの会話ですっかり女になって
いる。
「忙しくって・・死んだ女房の物も片付けていないんだ・・ゴメンね」
なるほど、1年ちょっとの男の独り暮らしのためにか、足の踏み場もない・・と云う程
ではないが、相当散らかっている。
開け放されている扉の向こう側は寝室らしくって、ダブルのベッドと白い洋服ダンスと
鏡台が見えていた。
こちらの部屋は居間と見えて、仏壇みたいなものが置かれていて萎れた花が添えて
あり、遺影があるのに昌子は気付いた。
それは昌子よりも20歳は若いと思われる美しい女の写真であった。
昌子はその遺影に向かって手を合わせて、暫くの間拝んでいた。
「昌子。アリガトウ。だけど・・そんなに永い間、何を拝んでいたのだい・・?」
「茶が入ったぞ。こっちへお出で・・よ」
お茶を入れた熊さんが散らかったテーブルの上を片付けながら、拝んでいる昌子の後
ろ姿に気づいて怪訝な顔をしている。
「あらっ・・ありがとうございます。奥様に謝っていたのです・・旦那様をわたしに
ください。大切にいたしますから・・。奥様にお願いしていましたのよ・・」(つづく
)
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