部長は俺の恋女房 { 4 }
「お早うございます。お買い物ですか・・?」
何処かで聞いた声に振り返ると、小柄な部長がニコニコとして立っていた。
俺がトレぺを2つ買ってレジのところへ行くと、ちょうど部長も収納用品を購入しに来た
ところだった。
部長のカートにはプラスチックの箱や引き出し見たいな軽い物が積まれていたが、嵩張る
物ばかりである。
「お送りしますよ。どうせ車だし・・」
自分のトレぺを部長の荷物のカートに入れて俺は歩き出した。
元来、俺は男に対してはそれほど親切ではない。この部長が軽いけど嵩張る荷物を持って
1キロ半近くの道を帰って行くのが、心配になっただけである。・・・これが、俺の第2の
幸運だと思っている。
夏木部長を助手席に乗せて部長のアパートに着くと、後部座席に置いた部長が購入した
箱を玄関まで運んでやった。
「どうも・・ありがとうございました。助かりました。もしお急ぎで無かったら、コーヒ
―でもいかがですか?」
部長は相変わらず丁寧な言葉使いで礼を言い、俺を誘っている。
『如何して・・この人は事務所にいる時の強面の態度と、こうして俺といる時の物腰の柔
らかい顔とが違うのだろう・・?』と俺は不思議だった。
別に急いでいる訳でもないので、俺はその招待を受けることにしたんだ。
部長のアパートは間取りも知っている。
それはそうだ・・俺が見つけてやった物件だし、課長の命令で荷物が届く前に清掃もした
のだ・・。
「失礼します・・・」
一応は挨拶をして部屋に入って見ると、庭に面したDKには陽が明るく差し込んでいる。
小さいな2人用の食卓テーブルと椅子が置いてあり、室内はほどんと荷解きが済んでいる。
綺麗に花も飾ってあった。
『女性の部屋見たい・・だな。奥さんでも来たのかな・・?』
飾ってある花を見た俺はそう思った。しかし、女性の姿は見えなかった。
奥の6畳間には真新しい布団が1組だけ敷かれてあるのが襖の隙間から見えている。
何処と無くだが・・チョンが―の男らしくない部屋の佇まいだったが、「奥様が見えたの
ですか・・?」とは聞かなかった。
「どうぞ・・座って下さい。まだ片付いていないのですが・・良いお部屋をお世話して
頂いて有り難く思っています・・」
部長は隣の布団が敷かれている6畳間との仕切りの襖を閉めながら、上司の言葉とは到底
思えない遜った物言いを使って、俺を2脚ある椅子の一方に座らせた。
「コーヒーでいいですか・・?」
そう聞いた部長はコーヒー茶碗を温めて、コーヒーミルにコーヒー豆を入れて豆を砕いて
いる。(つづく)
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