小説 舞の楽園 ( 部長は俺の恋女房 )
- 2021/10/11
- 23:32
部長は俺の恋女房 { 38 }
< 玲子の離婚 >
それからもう1か月程経った月曜日のことである。
「帰りに会えないかしら・・?大事なお話があるの・・」
俺と玲子の専用の携帯に女文字のメールがあった。文の最後には♡マークが就いている。
昨日一緒に寝た時も、今朝一緒に会社へ来た時も玲子はそんなことを言ってはいずに
変った様子は見られなかったので、俺は不思議に思って部長席の玲子を思わず見てし
まった。
部長はこちらを見ずに一生懸命決裁書類に印を押しているが、こちらを気にしている
のが見え見えである。
俺は書類を持って部長席に近づいている。
書類の1番上には「如何したのだい?」と書いた紙を置いてある。
「部長。ちょっと・・この件でお話がしたいのですが・・」
部下の俺が直接部長に相談するのを、課長が隣で嫌な顔をしているのを知りながらで
ある。こう云う相談は前の部長の時からしているのだ・・
課長は威張るばかりの無能な人物だと、俺は思っている。
「そうですか・・?じゃぁ・・こちらで・・」
部長は書類の上のメモを見て、相変わらず丁寧な言葉使いで、俺を隣の会議室へ招き入
れた。
会議室は10人は入れる部屋で、周囲が騒がしいので大声を出さねば聞こえることは
まず無い・・。今は空いていた。
扉から1番離れた奥の机の角に2人は座った。周囲の人に聞かれないように声を落とし
て話を始めた。
「如何したのだい・・?何があったのだい?」
会社の中で部長としてではなく、玲子として話をするのは初めてであるが、嫌な予感が
している俺はそんなことを言ってはいられなかった。
「ううんっ。妻が『会いたい・・』と言って来たのよ。わたし・・怖いのよ。1人では
心細いの・・。それは・・弁護士さんと一緒だけれど・・。向こうは義父と義母も出る
と言っているのよ・・・・」
玲子は小さな声ながら女言葉で支離滅裂に話始めた。
その顔は青白くなり、身体は本当に怖いのか小刻みに震えている。目には涙さえ浮かべ
ていた。
会社に於いては毅然とした態度を崩したことがない部長を知っている俺は、こんな小動
物のように怯えている玲子の姿を見るのは初めてだった。
「玲子。落ち着くんだ!力になるよ・・」
添付してある書類の裏の白い部分に、俺はボールペンで走り書きをして玲子に見せた。
それを見た玲子はここが会社であり、自分は部長であることに気付いたようである。
泣きそうな白い貌がやや血の色が戻った。
「ゴメンナサイ。取り乱してしまって・・」と書いた。
「今朝。会社に来ると同時に、わたしがお願いしている弁護士さんから連絡が入った
のよ・・。『今週の木曜日、10日の日に東京へ出向いて来られないか?』って・・。
『最終的に詰めたい・・』と言うのよ・・」
玲子は動揺していたのが落ち着いて来たのか、話始めた。(つづく)
スポンサーサイト