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小説 舞の楽園 ( 図書士の恋 )


 
図書士の恋 - ( 1 ) -1


   私は東京の近郊にある市で図書士をしております。
 図書士という仕事は本の貸出や返却、こういう本がほしいのだ・・」という予約やリク
 エスト、本の分類や登録等というのが仕事です。
 その他にレファレンスがあります。
 このレファレンスという仕事が一番大切だ・・と私は思っております。
 レファレンスとは、お客様の質問にたいする回答のことです。
 その本に対して、どういう本か・・という知識が必要なのです。
 現在はパソコンという便利な物がありますて、本の内容などおよその事は判るのですが、
 やはり本を読まないと作者の感情は読者に伝わらないのではないでしょうか・・?
 それもありまして、私は本の虫を自他ともに認めているのです。

  私の住んでいる市は30年くらい前は町でした。
 面積こそ小さい町でしたが、海側の埋め立て地の開発により土地が増え、人口が年々倍
 増しまして現在は20万人以上の人が住むようになりました。
 私はその町の古びた図書館の図書士として採用されました。やがて町は市になり、古びた
 図書館は新しい図書館になりました。
 私はその町が市になった頃に結婚しましたが、10年も末たずに離婚をされてしまいまし
 た。
食事の時も本に齧り付いている私の生活態度に、妻は嫌気が差したものと思われます。
 今になって思えば、{ 妻ともっと話をして、偶には旅行などにも連れて行ってやれば良
 かったのに・・ }と後悔しております。
 日常生活でも・・無論仕事でもそうだと思うのですが、{ 相手を思いやる気持ち、親切
 心と申しましょうか、そう云うものが大切だ }と思うようになりました。
 まだ若かった私は・・妻に対してそう言った配慮が欠けていたのです。

  私の職場は男性は私1人です。
 他には、女性の図書士が1人とパートの女性が3名おります。
 図書館は朝は10時に会館をし、夜は8時に閉館します。そして毎週水曜日が休館日にな
 っております。
 ご多聞に漏れず、私の市も週休2日制を取り入れていますので、基本的には女性の図書士
 は火曜日、私は木曜日がお休みなのです。
 基本的には・・と言いましたが、図書士は2人でけしかおりませんので、お互いの休みの
 日は融通し合っているのです。
 前にも書きましたが、私は本の虫ですので旅行等に行ったことがありません。だから・・
 彼女の方の都合に合わせることが多いのです。
 ・・と言うより、私の都合に合わせて貰ったことは1度もありません。


      < 気になった男性 >
ここのところ・・最初は気にも掛けてはいませんでしたが、6か月以上前から、土曜日
 になると必ずと言っても良いくらいに若い男性が来館するようになっていました。
 その男性は30代も半ばと見える、いつも短髪のサッパリとした髪型で、背丈は175
 cmくらいで、筋肉質の体形の方です。
 いかにも元スポーツマンと言った男の人です。
 土曜日は会社もお休みらしくって、白のチノパンに薄いブルーのジャンバーと云う姿で
 図書館に見えるのです。
 この間は4月も終わりに近い暖かい日でしたので、薄い茶色の長袖のシャツ姿でした。
 { 彼は服装のセンスがいいな・・} と思っています。

  4月から5月の連休の前日のことです。確か火曜日だったと思います。
 7時にパートさんも帰り、いつものように、私は返却された本の整理をしていました。
 その日、その時間は珍しく来館者は1人もありませんでした。
 7時45分を過ぎた頃です。
 クモリガラスの玄関の扉が開き、男の人が急いで入って来ました。
 「まだ・・いいですか・・?」
 「いいですよ・・」
 カウンターの上の本を整理している私に、男の人は息を切らして言います。私は振り
 返ってそう返事をしました。
 見ると・・いつも土曜日に来館する彼です。
 今日の恰好は、いつものラフな姿ではありません。明るい空色に近い紺の背広に、白
 いワイシャツ、エンジの柄物のネクタイを締めています。(つづく)













          
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