小説 舞の楽園 ( 図書士の恋 )
- 2022/03/10
- 22:44
図書士の恋 - ( 5 )
「昨年の10月に引っ越して来まして、何も揃っていないのですよ・・」
1週間の留守でお部屋の空気は淀んでおりました。クーラーとテレビのスィッチを入れ
た彼はキョロキョロと室内を見渡している私にそんな言い訳をしております。
「まあ・・座って下さい。コーヒーでもいかがですか・・?インスタントですが・・」
私のアパートの部屋なんて、本が重なり合って足の踏み場が無い状態なのです。
その本もテーマを決めて読む訳ではありませんので、雑多な本や雑誌がところせましと
あっちこっちに重なり合っているのです。
それに比べると、私の部屋と彼のお部屋では段違いなのです。
私は自分の部屋の佇まいを思い浮かべて朱になりました。
その間に、彼は薬缶を取り上げて水道の栓を捻っています。そして、私の返事も待たず
にインスタントのコーヒーの袋を破いております。
「ちょっとお待ち願えますか・・?埃路をバスに揺られて、電車に乗って・・汗を搔
いたので、シャワーを浴びたいのですが・・」
2人分のコーヒーを机に運んで、ちょっと口を付けただけの彼はそう言って立ち上がり
ニッコリと笑うのです。
「いいですよ!コーヒーを味わっていますから・・」
笑顔に釣られて私が答えると、洗面所の扉を開けて電気を点けています。
私がノロマかも知れませんが、彼はやることが早いのです。
曇りガラスの中の影が衣服を脱いでいて、ボンヤリとですが裸になった彼の姿が見えて
います。
思わず、若い彼の裸体を想い浮かべてしまいました。
彼の身体は私の貧弱な白い裸体と比べて逞しいのだろうと・・
私は高校時代も、東京での大学時代も、男に興味を抱いたことはありません。無論こ
の図書館に勤めるようになってからも、そう云うことは1度もありません。
こう云う職業上、低俗な雑誌や図書などで、ゲイやホモと云う人達のことは知ってい
る積りです。
けれども・・自分がゲイではないか・・と疑ったこともありません。
でも・・でもなんです。
曇りガラスに写った影が衣服を脱いでいるところを見て、全裸になった彼の逞しい
肉体を想像していたのです。
「お待ちどうさま・・」
テレビを見ながら彼が注いで呉れたコーヒーを飲み終わる頃に、黄色のバスタオルを
巻いた彼が現れました。
声のする方を見ますと、逞しい彼の半裸体があるのです。
小麦色の美しい肌に、一筋水滴が光って流れていました。
タオルは・・当然男の人ですから、腰から足の中程を覆っているに過ぎません。上半
身は裸です。
胸には胸毛こそありませんが、運動をしていたのでしょう筋肉が盛り上がっていまし
て、男性的な美しい裸体です。
タオルの前は盛り上がっていて、男性器の在りかを如術に示しています。それを見て
私は目が離せなくなり、何故か朱くなっていたと思います。
「もうちょっと待っていて下さい・・」
彼はそう断ってから、DKに続く襖を開き奥に有る部屋に入りました。
そして洋服タンスの下部の引き出しを屈んで開けています。
腰に巻いたタオルの下の引き締まったお尻が強調されています。
見るとはなしに見ていた私は、彼の行動、いえお尻から目が離れないのです。
引き出しから濃紺のボクサーパンツを取り出した彼は、腰に巻いている黄色のバス
タオルの結び目を解いて全裸になりました。私の方へ背を向けていますから、彼の
お尻はバッチリと見えています。
そのお尻は小振りですが硬く締まっておりまして、如何にも若い男のお尻です。
彼は浅黒く輝いているようなお尻を振ってパンツを履きました。そして突然後ろを
振り返ったのです。
何故か後ろから彼の全裸をジッと見詰めていた私は{何か悪いことをしていて、見
つかって仕舞った子供のように感じて、ドギマギとしてしまったのです。本当に
真っ赤になっていました。(つづく)
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