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小説 舞の楽園 ( 退職記念 )


 
退職記念 - ( 1 )

   < 1 > 新聞の広告

   永年勤めて部長まで上り詰めた会社を定年退職をしました。
 退職記念として南米旅行をと、妻と話し合ったのが、退職の1年前です。その時は妻は元気でした。
 突然の病気で亡くなってしまったのです。病気が発見されてから約4か月の命でした。

   それから約3か月は呆然としていました。
 それでも私には会社がありました。同僚と部下とも顔を合わせなくてはならなかったので、気が
 紛れていたのです。

  今年3月31日。いよいよ退職の辞令が下り、4月からは会社にも行かなくても良くなりまして、
 20年暮らした埼玉県のマンションに独りぼっちになってしまいました。

  私は津村昭夫と申します。
 私達夫婦には息子と娘がおりますが、息子は大阪の会社に勤めており大阪の方に所帯を持っており
 ますし、娘は九州の別府に嫁いでおりまして、こちらの方には滅多には帰って来ないのです。
 妻の葬儀の時に、私の今後の身の振り方を3人で話し合ったのですが、「今のところは独りで大丈
 夫だ・・」と強がりを申していました。
 息子が「僕のところに来ないか・・?」と言うのを断っていたのです。
 { 折角ああ言ってくれるのだし、足腰が弱くなったら考えてもいい・・}と考えております。
 でも、実際のところ、息子の嫁さんのいるところには行きずらいのです。身内と言っても嫁さんは
 元は他人ですから・・

  会社に勤めている頃には、各社の新聞を政治・経済面をくまなく読んでいたものです。
 しかし、定年退職した後は、取っている朝日新聞の政治等重要の思われる1面記事をザット目を
 通しまして、経済面等は見なくなりました。
 身を入れて読むのは天声人語とスポーツ記事ぐらいなものになってしまっております。

  私も若い頃は良く麻雀をしました。
 徹夜麻雀になりまして妻を良く泣かせたものです。
 しかし、30年くらい前から麻雀をする若い人もいなくなり、麻雀店も無くなって、人生無味乾
 燥なものに変わってしまいました。これは・・私だけのものでしょうか・・?
 囲碁も将棋も一応は嗜みますが、それほど強くはありませんで、麻雀ほど面白くはありません。
 頭の健康のために、地域の麻雀の同好会があれば入ろうかと思っております。
 
あっ・・話が逸れてしまいましたね。
 兎に角毎日が退屈で無聊をかこっていたのです。
 新聞を見ていると、紙面の下側にある広告が目が行くようになりました。すると、国内の名所
 旧跡の旅や海外の旅の案内が載っていることに気づいたのです。
 以前の私でしたらば、その様な広告は全く興味がありませんでしたので、見過ごしていたに
 違いありません。

  その中で「イグアスの滝とマチュピチュの遺跡・ナスカの地上絵のゆったり旅」と言う広告
 を見つけたのです。
 「南米へでも行って見ようか・・」と妻と2人で話したことを思い出したのです。
 「わたし。行くのなら・・世界最大のイグアスの滝が見たいわ・・」と妻は語っていました。
 独りの旅行なんてしたことは無かったのですが、{ 行って見ようかな・・}と思いました。
 滝の写真を撮って来て、妻の遺影に飾ってやろうか・・と思ったのです。(つづく)

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