小説 舞の楽園 ( 退職記念 )
- 2022/03/28
- 23:51
退職記念 - ( 3 )
その時に知ったのですが、男性が単独参加と云うことを・・単独で参加しているのはこの男性
と私だけのようです。
話し掛けて来た男性が気にはなったのですが、何しろ私は初めての人と云うのは苦手なんです。
そっとその男性を見ていました。
この年になっても人見知りをしている私です。
仕事をしている間は、見知らぬ他人とも話をしなくてはなりませんでしたが、退職をしてからは
学生時代に後戻りしてしまったようです。
その男性はドッカと隣に座りました。
「どうぞ・・!甘い物はお嫌いですか・・?」
暫くガサゴソと腰に巻いたウエストバックの中を掻き回していましたが、飴を取り出すと私に差
し出して来たのです。
「アッ・・どうも・・。いえ嫌いではありません。いただきます」
不意を突かれた私は口の中でモゴモゴ言いまして、お礼を言い受け取ったのです。
その男の方は50代半ばと思える方で、頭はチョット薄くはなっていましたが、凄く男性的な感じ
がするのです。
身長は180cmはあろうかと云う偉丈夫で、それほど太ってはいません。
毛深いと見えて手の甲まで黒く太い毛が生えていました。
若いころに何かスポーツをしていたような躯です。
銀色のツーポイントの眼鏡を掛けていまして、服装は旅行ですから薄い青に近い長袖の襟のある
シャツを着て、紺のズボンを履いています。
ラフな恰好ですが、どこか威厳を感じる姿です。
飴を差し出す大きな手がとっても印象的でした。
「お独りですか・・?わたしもそうなのです・・よ」
差し出す手の中の飴を2つ受け取った私に、笑顔で聞いて来ます。
彼の笑顔は知的ですが、まだ私にはとっつき難いと云った感じでした。
しかし・・その笑顔は目尻が下がって来まして皺が寄って来まして、とってもいい笑顔になるの
です。むしろ、可愛い笑顔と言った方が良いかも知れません。
{ この笑顔でこの人は救われている・・}と私は思ったものです。
ロスからリマを経由してブエノスアイレスの空港に来た時です。
リマの空港の集合場所でその人は連れの方が見えなかったので、{ 単独で参加している人が
いる・・と添乗員が言っていたので、この男性かな・・?}と思っていたのです。
他のツアー参加者は皆。奥さんと思われる方とご一緒なんですもの・・女性だけのグループの
人達も2組ありましたが、一塊になっていました。
この男性だけが気難しげに1人ほつんと立っているのを見まして、{ この男の人だったらば、
お近づきになるのは難しいだろうなぁ・・}と内心で思っていたのです。
その方が相手から近づいて来たのです。しかも、可愛いと思えるような笑顔を浮かべて飴を差し
出すのです・・
その男性の笑顔に、私は一遍に心を許してしまいました。
あっ・・私ですか・・
私は小柄でして160cm、60kg。現在の男性の基準から言うと小さい方です。
宮城県でも山形に近い山の中の出身でして、男にしては色が白くって華奢なのです。
上には年が10才も離れた兄がおります。現在は兄が田舎で農業を継いでおります。
両親は私が生まれた時に余程女の子が欲しかったと見えて、小学校に上がるまでは女の子の姿
をさせられていました。
父親と兄は175cmを超える身長ですが、母親は小柄で東北地方の女の人らしく色白です。私
は母親に似たのでしょう・・
学校へは男の子の姿で登校しましたが、学校から帰ってくると女の子に戻って、ご近所(・・
と言っても子供の足で20分ぐらいは離れていましたが・・)の姉妹とおママゴト遊びなどを
していたものです。
中学生になって、遠くの中学校へ自転車で通うようになって、初めて詰襟の制服を着るように
言われて「そんなものは着たくはないよう・・」と言ってないたことは覚えております。(
つづく)
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