小説 舞の楽園 ( 退職記念 )
- 2022/04/26
- 22:39
退職記念 - ( 31 )
「出よう!」
彼は立ち上がりました。手には伝表を持っています。
「半分。支払われて下さい・・」
「いいんだ!」
レジの処で言いましたが、カードでお支払いを済ませています。
私も少しばかりでしたが退職金を頂きますたので、有り余っているほどではありませんがお金
には不自由していれ訳ではありません。
彼には負担を掛けるのは申し訳ないのです。
彼は古いタイプの人間らしくって、女の人には支払いはさせない・・と言った態度でした。
男らしいその姿勢に私はそれ以上は何も言い出せ無かったのです。
それからホテルのロビーへ行き、私を待たせておいてクロークへ行きました。
10分ぐらいでしょうか、私はロビーに置いてあった新聞を見ております。久し振りの日本の
新聞でした。
1面、2面と読んでいると彼が戻って来ます。
「チェックインは3時からだそうだ・・!それまで買い物に行ってこよう・・!お前の車はこの
ホテルの駐車場に置いて、俺の車で行こう・・よ」
彼はトランクとお土産は別の便で日本に送っていますから身軽なのです。
{ お土産でも買い足りなかったのかしら・・?}と思いました。
私は助手席に乗り、彼の運転で成田方面に向かっています。
彼のプリウスは本当に静かなのです。走り出す時も音はほどんとしないのです。
「静かで・・良い車ですこと・・」
「うん。燃費も良いから・・この車にしたんだ・・!」
彼はちょっと誇らしげです。
「リッター当たり・・何キロぐらい走るのかしら・・?」
「う~んっ・・25kmから28kmぐらいかな。30kmは行かないようだよ」
「けれども・・今までの車の半分ぐらいは、燃費が助かっているよ・・」
「まぁ・・そんなに・・?わたしの軽なんて・・15kmぐらいですのよ・・」
助手席に座った私との会話です。
他の人に聞かれる恐れの無いところでは、女言葉も自然に出るようになっていました。
彼の車は20分ほどで成田のイオンモールに到着しました。
ダイエーと専門店が沢山並んでいるモールです。
彼は来たことがあるようでサッサと歩いて行きます。私は不思議に思いましたが彼に就い
行きます。
彼は専門店の1軒の女性のお洋服や下着類を着たマネキンが並んでいますお店へ入って行き
ます。
「前に女房と買い物をした店なんだ・・!まだあったんだ・・」と言っております。
そのお店はシックなお洋服を取り揃えてあるお店らしくって、マネキンの着ているお洋服も
ちょっと高級感が溢れているものばかりでした。
ボンヤリとお店のマネキン等を見ていますと、店員さんに呼ばれました。
だって・・そんな高級そうな女性の物ばかり扱うお店には入ったことがなかったんですも
の・・
男姿でマネキンを見ているなんて、妻と一緒ならば男姿でも何とか言い訳が出来るのですが
、女性の身体を見ているようで恥ずかしいじゃありませんか・・
「津村さん。ちょっとこちらへいらして頂けませんか・・?」
「この人ぐらい・・なんですがね・・」
呼ばれた私はお店に入りました。すると、彼が私の方を抱いて、お店の女店員の方に言う
のです。
私は一瞬、焦ってしまいました。
最初にこのお店に彼に従って入った時には、{ 彼の息子さんのお嫁さんかお母さまにでも
買って帰るのかしら・・}と思っていました。
しかし・・南米まで行って、成田でお土産を買うと言うのも不自然です。
「この人ぐらいなんです・・」と言って、私を女店員さんに見せているのです。しかも・・
女店員さんに見えないように、私に向かってウインクまでしているのです。(つづく)
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