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小説 舞の楽園 ( 退職記念 )


 
退職記念 - ( 52 )

   「ここではお話も出来ない・・わ!喫茶店へでも入りましょう・・よ!」
  驚いています2人を前にして、私の声はもう作った女の声ではありません。自然に出ます女声
  です。
  呆気に取られています2人を連れて喫茶店へ行きました。一見冷静なのは私だけのようです。
  喫茶店の片隅の席が幸運にも空いていました。
  私達はそこに腰を降ろしてコーヒーを注文しました。

   「どう・・?あなた達も変わりが無い・・?」
  注文したコーヒーが来るまでの間、3人は無言です。
  穴が空くほどに見ている彼等の視線を感じています。
  私は恥ずかしいと云う気持ちと、女になりまして開き直りでちょっぴり誇らしい気持ちで、微
  笑んでいました。
  女店員の方がコーヒーを運んで来まして、私の第一声です。

   「変わりは無いけれど・・」
  「お父さん・・変わったわね・・!」
  2人は口々に言い出しました。しかし・・改札口からこの喫茶店まで歩いてくる間に2人は
  驚きからやや冷めたようです。
  「これからは・・『昭子』と呼んで下さらない・・!」
  この喫茶店はザワザワしていて、余程注意をして聞いていません限り、隣の会話も聞こえては
  来ないのです。
  私は開き直ったついでに、普通の声で言いました。無論、女の声でです。
  その言葉を聞いた2人は思わずと言ったように眸を見合わせていました。
  そして・・娘は驚きから立ち直ったのか、それとも私を馬鹿にしたのか知りませんが、同性
  の冷たい眸で改めて私を見ました。
  息子は、どの男でも見せるような特有の好色さを讃えたような眸を一瞬浮かべております。
  私の思い違いでしょうかしら・・

女になりまして開き直った私は、中年男達が私を好色そうに見る目が好きになっておりま
  した。
  { この人はわたしが男だなんて考えてもいないのだわ・・!わたしを女として抱きたい・
  ・と思っているのだわ・・}と考えると、旦那様である彼に女にされた部分がジュンと潤ん
  で来るのです。
  それは・・中年女性特有の考え方のようなのです。

   私がおしゃべりしたことは、概ね手紙に書きましたことでした。
  ただ違ったことは、手紙の中では2人に対して私がオンナになったことを平謝りに謝って
  いたことでしたが、喫茶店の会話の中では息子達に謝ると自分が惨めになるのが嫌で、謝
  ってはいませんでした。
  女の姿を晒して、私は開き直っておりました。
  息子も娘も私の現況を解ってくれたようです。
  いえ・・納得してくれた訳ではありません。会ってからの私の女の姿と女の言葉と、開き直
  っている態度とが、今の生活を変える意志などサラサラないことを理解したのだと思います。

   けれども・・息子も娘も口々に「昭子さんが女になっていることを、僕達の嫁さんや親戚
  の人達には知られたくは無い・・」とキッパリと言われてしまいました。
  「親類の慶仏には来ないでくれ!もう僕達は身寄りが無いものだと思っている・・」とまで
  言われてしまったのです。
  縁切りですね・・
  「仕方の無いことだわね・・!」
  { 「彼等がわたしと縁を切る!」とハッキリと言わないだけでも増しだわ・・ね}と思 
  った私は「ゴメンね・・」と初めて謝っておりました。(つづく)
  






























 
 

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