小説 舞の楽園 ( 退職記念 )
- 2022/05/22
- 00:06
退職記念 ー(53)
「三郷のお家は人に貸すことにしたのよ。もしわたしが死んだらば、お葬式の費用にして
ちょうだい・・な。売って残った金額はあなた達2人で分けて・・ね」
2人が驚愕から少し落ち着いて来たのを察して私は切り出しました。
これが一番言いたかったことなのです。
2人は如何思っているのかは知りませんが、2人は黙って頷きました。
私の葬儀などはしないと思っているのかも知れません。
それから・・2人の近況などを聞きましたが、2人共口が重いのです。
「これから・・如何するの・・?泊まるところは?」
私は2人に聞きました。
「お父さんの・・いや、昭子さんの住宅を見たいのだ!どんな生活をしているか・・知り
たいのだ・・」
「いいでしょう・・?わたし達に秘密にして置かなくっても・・」
「その彼にも会いたいんだ!どんな格好をしている人なのか・・知りたいのだ・・!」
好奇心とチョッピリの皮肉を込めて言っています。
彼に対して嫌悪感だけは無いようです。
今は完全な女になった生活を息子と娘に見られることに、私は躊躇を覚えていますが、彼
に会いたいという2人の気持ちも理解できます。
でも・・今の生活を見せて、もし笑われてしまったらば如何しましょう・・と言う気持ちと、
ここまで知られてしまったならば後は一緒だわ・・と思う気持ちが交差しておりました。
「いいわ!如何あっても・・知りたいのでしょう?ご招待いたしますわ・・」と言ってしま
っておりました。
覚悟をしていたように、彼に息子達を会って貰うつもりです。
彼に携帯で電話をして、有って貰えるかどうかを再確認いたしました。
勿論。彼は快諾をしして下さいました。
カーテン等も新調した三郷の住宅に2人を案内しました。
電車に乗るときも車内でも、私は完全に女の仕草です。
もう、私は昔男だった影も見せることはありませんで、完全な女としての姿と生活を送って
いることを態度で示している積りです。
息子達も流石に、初めは違和感とそして不思議そうな眼差しで、私を見詰めていましたが、
言葉から仕草まで徹底して女になっている私に大分慣れて来たようです。
お部屋に入ると・・
「綺麗なお部屋じゃない!女になったお父さんがどんな生活を送っているのか・・心配だっ
たのよ・・」
見回していた娘が言い、息子は黙って頷いています。
どうやら・・2人の私に対する反感の気持ちは薄らいで来たようです。
「あなた達が来るかも知れないと思って、買って置いたのよ・・!どうぞ・・召しあがっ
て・・。彼も直ぐに来ると思いますわ・・」
2人にテーブルに着いて貰って、お茶と和菓子を並べてから、私は寝室に入って着替えを
始めました。
「汗を掻いたわ・・!冷や汗かしらね・・」
独り言が自然と出ています。 あせで少し濡れたブラを替えていました。
彼とお付き合いを始めた頃、取り始めました女性ホルモンによって、大分膨らんで大きく
なった乳房を両手で掴んで持ち上げています。
今日、女になったこの肉体を息子達に見せてことで踏ん切りが付いたのでしょう、彼が愛し
て下さるこの肉体が愛おしくてたまりません。
「あらっ。着替えて来たの・・?」
「昭子さんもスタイルが良くなったようだね・・」
青紫色のチェックの柄の膝上のスカートに淡い空色の半袖のブラウスを着まして、2人の
前に現れた私を見て娘と息子が声を上げました。
息子は私の体形が変わったことを、驚きと皮肉を込めてでしょうが誉めてくれています。
息子は私が女になったことを認めてくれたように、「昭子さん」と言ってくれています。
「あらっ・・そうかしら・・」
チョット品を作って白い腕を上げた私は明るくいいました。
暗くなるのは・・私の性には合いません。(つづく)
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