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小説 舞の楽園 ( 看護婦になった私 )


 
      看護婦になった私―(10)
 「あっ、ごめんなさい」
今放出されたアヌスとお口を濯ぎ終えてカーテンを開けた私は、カーテンの前
に立っている岸副医院長の姿を認めて、心臓がひっくり返るのではないかと思
うぐらい吃驚しました。だって、誰もいないと思っていたのですもの・・
そして、今の出来事を聞かれてしまったのではないかと思ったのです。
でも、むしろ、驚いたのは岸先生もです。トイレの中に居るのは女とばかり
思っていたのに、出てきたのは看護士の男の私だったからです。
「失礼します・・」
瞬間的に貌が青くなって、頭が白くなった私です。如何することも出来ません。
先生の身体の脇をすり抜けようとしていました。
「大内君。ちょっと待ちたまえ!」
岸先生は私の左手を捕らえていました。
病院の看護士が、病院内で患者とああいう行為は厳禁です。拙いととっさに
考えた先生です。
看護士にとって、医師の言うことは絶対です。ましては患者さんとのセック
スを知られてしまったかも知れない副医院長にです・・
私はブルブル震えながらも、起立の姿勢を取りました。
私の頭の中では、{先生に男の患者さんとのアナルセックスを知られてしま
ったのだ。どうしよう。皆に言い触らされるかもしれない。もうこの病院
には、いやこの看護士という世界にもいられない・・}と言うことが渦巻
いていました。
「後で、私の部屋に来なさい。大内君」
放心したように立っている私に向かって、わざとゆっくり一言一言区切る
ように言いました。

    (7)
 岸副医院長先生に小林さんとの情事が見つかったことは間違えありませ
ん。
私は病院の階段を駆け上がって屋上へ出て、顔を覆って泣きました。そこ
より他に泣くところを、今の私には思い浮かばなかったのです・・
岸先生の怖い顔を思い浮かべると、私は病院内での厳禁のことをしてしま
ったのだと気付いたのです。
そして、あんなトイレなんかで私を弄んだ小林さんを恨みました。しかし
怨んでも恨んでも私にとっては最初の男である小林さんは憎めませんでし
た。
勿論、1番悪いのは私だと知っております。
如何しよう。如何しようとこれからのことを考えますが、頭の中が真っ白
くなってしまい考えられないのです。
いっそのこと、この屋上から飛び降りて死んでしまおうと思い、外柵のと
ころまで行ったのですが、弱虫の私には死ぬことも出来ませんでした。
そうこうしているうちに、真夜中の12時になってしまっていることに
気付いたのです。岸先生は今夜は当直では無いことに思いあたりました。
あまり待たせると、どんな酷いことになるのか分かりません。もっとも
悪いのは私の方ですから・・・
病院を辞めさせられて、やっと入ったこの世界からも抹殺されてしまう
ことを納得して覚悟を決めて、私は1階にある副医院長室の扉を震える
手でノックをしていました。
その時の私は、顔色は紙のように蒼白で、身体は全身がブルブルと震え
ていたと思います。(続く)
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