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小説 舞の楽園 ( 海 )

 

『 海 』  - 2
   
    そして・・
  今夜一泊する旅館を探しているうちに、赤チョウチンが眼に入りましたことを思い出
 しました。
 何故か・・
 お酒は飲める方ではない私ですが、そのチョウチンの紅い色がとっても鮮やかだったの
 か、夕日を見た所為か妙に人恋しい気分になって、フラフラと暖簾を潜っていたのです。

  そう言えば・・昨晩は・・あれから・・
 この港の端っこにある酒場で、2~3人の屈強な男達に挟まれて、何故かこの肉体に
 触られながら、猛烈に強い地酒を奢って貰って、半ば強制的に飲まされたことまでは覚
 えております。
 しかし・・後のことは全く記憶が無いのです。


  私は折原綾男と申します。
 半年前に25年余り勤めた会社を解雇されてしまいました。
 高校を出ましてある繊維会社の総務課に勤務しまして、如何にか主任まで務めたのです
 が、この不景気の煽りを受けて会社も合併をしまして総務も縮小と言うことで、社員の
 1/ 3はリストラされてしまったのです。
 幸いと言いますか不幸といいますか、私は45歳になる今日まで独り身でした。
 それもこれも・・股間にブラ下がっているものが他人よりも大分、と言うか随分と小さ
 くて、白くって皮を冠っているが故、若い頃より引っ込み自案で女性には相手にもされ
 ません。

  会社に勤めている頃は、単に会社と1D Kのアパートを機械的に往復する毎日でし
 て、土曜・日曜ともなればごろ寝をしましてテレビを見ることが趣味でした。
 戸外でスポーツなどしたこともありませんでした。

  私は女性のように骨が細くって、男性としては色が真っ白でして、体格も小さくって
 気が弱いこともありまして、『女のような奴だ‥』と会社の同僚にも言われていました。
 住んでいるアパートの住民からも『男女・・』と噂されていることも承知しておりま
 す。


  { 着ていた服は・・?ズボンは・・?昨日着ていた長袖のシャツは如何したのだろ
 う・・?}
 {裸に近い姿で寝ているなんて・・}
 2人の逞しい男達に無遠慮にジロジロと下着姿を見られて、青白い顔ばかりでは無く
 無毛の手足さえも朱く染めて、1坪半ばかりの板敷の胴の間をキョロキョロと見回す
 私でした。

「何を捜しているんだ・・?」
 別に驚かそうとしている訳でもなさそうですが、海の男の声は大きく荒々しいのです。
 きっと・・波の音やエンジンの音でもって掻き消されてしまうからでしょう。
 気の小さい、そして人見知りの激しい私には怒鳴られて、威嚇されている・・としか
 思えないのです。

  「ハ、ハイ。洋服を・・わたしの着ていた洋服を・・」
 怒鳴られた恐怖で半裸の手足をより縮めて、泣き出しそうな声でオドオドと答えて
 います。
 ワナワナと唇が震えています。
 「洋服・・?そんな物はなかったぜ!なあ・・兄貴!」
 「うんっ。俺は・・見ていねえぜ・・!」
 2人は怒鳴りあうように会話をしています。それがまた・・私には異常に怖いのです。
 私は怯え切っておりました。(つづく)



























      
 
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