小説 舞の楽園 ( 海 )
- 2022/09/25
- 23:07
『 海 』 - 3
後で知ったのですが、2人は3つ違いの兄弟でした。
お兄様の方が、鍾馗様を連想させる髭面の方で、全身が毛深く羆のような大男。健様
32歳です。
髭の剃り跡も青々と若々しい、これまた全身が筋肉塊のような方が弟さまで錠様。2
9歳です。
お2人ともこの港町に住まわれている漁師です。
今朝も、夜明け前から岸壁に繫いであったこの健錠丸に乗り込み、漁に出たとこ
ろだったのです。
漁に出ている間の水や食料品を積み込み、漁網の支度等漁の準備を終えて、今し方胴の
間に降りて来た模様です。
2人共、まさか他人がこんなところで眠っていようとは・・思ってもいなかった・・
と言っていました。
ポンポンポンと軽快なエンジン音と小波で舩先が揺れる感覚に、私はここが船の上
だ・・と言うことを悟りました。
「ここは・・船の上ですか・・?帰して下さい!・・港に戻って下さい・・!」
そして・・私は悲鳴のような悲痛な言葉で叫んでいたのです。
「そうさ!ここは俺達の持ち船健錠丸の上さ・・」
「これから漁に出て2~3日。天候の具合じゃ4~5日は港にゃ戻れねぇ・・帰して
くれと言ったって・・戻る訳には行かねぇぞ・・」
羆のような大男がエンジンの音に負けない大声で怒鳴ったのです。
「帰して・・戻って下さい・・!間違えて乗ってしまったのです・・港へ戻って下さい」
顔からは血の気が引いて、私はパニックに陥っておりました。
「馬鹿野郎!!俺たちの問には何にも答えねぇで・・港へ戻れ!だと・・」
筋肉隆々の大男が顔を真っ赤に染めて、1段と大きな声をしました。
見も知らぬ大男達に囲まれていることと、男達に怒鳴られたショックと心細さで、私は
涙が出て来ています。
女のような可愛い顔を( 私ははそうは思ってはいませんでしたが、彼等は後でそう言
っていました )手で覆って泣き出していました。
もう・・その精神状態は普通では無かったようです。
「オイ!おめいは何処から来たんだ・・?何故・・俺達の船に乗っているんだ・・?」
泣き出してしまった私を見て、呆れ返ったような2人は声を揃えてまた聞いてきます。
その声は先程とは違って幾らか優しい声なのですが、まだまだ私には怖いのです。
「帰して下さい・・」
私は頭を振って泣いているばかりです。
男達の顔色が変わりました。眉が吊り上がって来ています。
小さくなって肩を震わせて、顔を覆って泣いている私に男達は女を連想させたみたいな
のです。
「女見ていに・・泣くんじゃねぇ・・」
健様が呟きました。
『女・・』
錠様がピクリと反応します。
2人とも女には飢えている見たいでした。海の男は漁には女を連れては出ないのです。
謙譲丸の2人もそうでした。
{ オイ。兄貴!犯っちまおうぜ・・}
2人は目を見合わせたようです。
その時の2人の眸は女に飢えた野獣の眸でした。(つづく)
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