小説 舞の楽園 ( 海 )
- 2022/09/29
- 23:28
『 海 』 - 7
痺れた頭で、『ストリップ』と云う言葉を聞き理解したとたん、昔若い頃に会社の
飲み会の帰り道に同僚に誘われて、場末のストリップ小屋に入ったことを思い出しまし
た。
その小屋の舞台の上では、5~6人の踊り子が代わり番こに出て来ては、妖しい音楽と
暗い照明とスポットライトの光の中で、踊りながら全裸になり女陰まで見せています。
あんなことをする女性は皆可哀そうな境遇のひとなんだろう・・と思いながらも、何故
か興奮して、小さな男の持物をそれなりに大きくしていたことを思い出していました。
「イヤだ!!嫌です!そんなこと・・出来ません!幾ら何でも・・女の代わりなんか
・・許して下さい・・!」
頭を振り夢中で泣き叫びました。
だって・・ストリップなんてものは女が男の欲情を満たし、掻き立てることのために
するものなのです。
私は男なのです。女のようにこの男達の欲情を掻き立てるなんてことが出来るはずが
ありません。
思わず、男達の目の前から逃げ出そうとしていました。
「オット!何処へ逃げる積りだ・・!ここは船の上だぜ・・!」
立ち上がった私の右腕を素早い身のこなしで、半そでシャツの上からムンズと捕まえ
て、錠様がせせら笑っています。
白い骨細の私の上腕を掴んだその腕は素晴らしいほど太いんです。
力瘤が浮き上がり、凄い力でギュッと握っているのです。
「イタイッ・・!離して!痛いんです・・・!離して下さい・・!」
私は足が浮いて掴み上げられた腕はもろに全身の重みを掛けられて軋んでいます。
肩の骨が外れそうな痛みに、私は今度は盛大な悲鳴を上げています。
「イヤなら・・海へ放り込むぞ!」
「俺達はどっちでも・・いいんだから・・な!脱ぐのか・・?それとも海・・か?」
掴んだ腕を吊り上げた錠様は余裕を持って来たみたいです。
健様がまた凄みました。
「女の代わりをすると約束したばかりじゃねぇのか・・?女の代わりが嫌で、出来
ねぇんだったら・・お前は用無しだな・・!」
「海に放り込んでサメの餌食になって貰わなくっちゃ・・しようがねぇんだ!」
この船の上では、この男達に正権与奪の権利を握られていることに、私は気が付いた
のです。
私はハッと気が付き、我に返りました。
死にたくはありませんでした。
ここは船の上。海に放り込まれたらば、泳ぐことが出来ない私は確実に溺れ死ぬで
しょう・・
きっと・・苦しんで苦しんで海の底に沈んで行き、魚に突かれて白骨になるでしょう
・・
否、それよりも前に・・サメに胴体を喰い千切られて、血が噴き出すのかもしれま
せん。
そんな恐ろしいことを想像すると、そんな死に方はしたくはありませんでした。
無性に生きていたかったのです。
そう言えば、昨日の私はおかしかった。
不意に独り旅に出たり、不意に夕焼けの海が見たくなって列車を降りて港へ出たり、
飲めもしないのに赤チョウチンに誘われて縄のれんを潜ったり、強いお酒に手を出
したりしてしまったのだろうか・・
そして、今、この男達の船に乗り込んでいて、この男達の目の前で吊るされている
自分が信じられませんでした。(つづく)
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