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小説 舞の楽園 ( 私は薫 )


        「 薫 」(2)
「馬鹿だね。何を勘違いしているのかね・・・」
大将はしょうがないと言うように、大業に呆れて言っております。今日はいつ
もと感じが違うのです。私にはその時、大将が何か大事なことを話そうとして
いるような感じがしたのです。
「あのね、山ちゃん。俺が言いたいのはそんなことじゃないんだよ・・・女が
男を好きなように、今ちゃんが好きなのか・・・と聞いているんだよ」
大将の眼が真剣になっておりました。大将は真剣になると大きな眸をギョロリ
とさせて睨むような感じになるのです。今がそうでした。
それは・・・私は今ちゃんのことが大好きなのです。・・・しかし、そう真剣に
聞かれると返って返事も出来無いのです。
私は大将から眼を反らして頷いてしまいました。その時は「女が男を好きなよ
うに・・・」と言う大将の言葉だけが頭の中に渦巻いていたのです。
 
「この間だって、今ちゃんが会社の用事で遅くなって来たことがあったろう
?。彼が来るまではソワソワしっぱなしだったじゃないか。会えずにいる日な
んかは、傍目から見ても気の毒なくらいしょんぼりしているんだもの・・・」
「まるで、恋人に振られたように見えるんだ・・・」
そんな風に私を見ていた人がいるなんて・・・と思いながら、下を向いたまま
私は聞いていたのです。もち論、恥ずかしくって答えることも出来ません。
「ところが、今ちゃんも同じなんだよ。山ちゃんを見る今ちゃんの眸が、山ち
ゃんとそっくり同じ眸をしているんだな。山ちゃんが帰った後で今ちゃんが
来た時なんかは、もう本当に元気が無かったものな・・・」
初めて聞く話なのです。でも、とても嬉しくなる話なのです。

それから、大将の言う『山ちゃん』とは私のことなのです。
「俺はピ~ンと来たね。山ちゃんは今ちゃんに惚れているんだってね。そして
今ちゃんは山ちゃんのことが好きなんだってね・・・・。」
「何が『ああ、男が男に惚れて・・・』なんだよ。素直に言ったらどうだい?
俺はそんな話を聞いても、嫌な感じは受けないよ。驚きもしないんだよ・・」
私は紅くなって黙って杯をちょびっと傾けていました。大将の言葉に好意以
外の何か特別に大事な意味を感じていました。
そして、今夜の出来事は一生忘れることが出来ないような感じがしていたの
です。

 「ちょっと俺の話を聞いてみる気はないかい?」
大将は身を乗り出して来て。又話を続けています。
「俺のカカアを見たことがあるだろう?この店にはほとんど来させちゃいな
いから、俺のカカアを知らない客もいるけれど、山ちゃんは2度ほど会って
るよ。山ちゃんが『若くて可愛い奥さんですね・・・』って誉めてくれたカ
カアだよ!」
大将は突然奥さんの話を始めたのです。私はキョトンとして大将を見つめて
大将の話に頷いているだけです。
「あいつが俺のことを見初めた頃に俺を見る眸と山ちゃんが今ちゃんを見る
眸が良く似ているんだなあ。これが・・・・。相手を見る眸に熱が篭ってい
るんだなあ・・・」
大将はカウンターの上に置いた盃のお酒をグイッと一気に飲み干しました。
【続く】
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