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小説 舞の楽園 ( 私は薫 )


          「 薫 」(4)
私はまた大将の飲み干した盃にお酒を注いで上げてから、ついでに私の盃にも
お酒を注いで彼の話に耳を傾けています。大将の話は佳境に入って来たような
のです。
「ある時奴がね。『こちらへ来るから定休日にでも会って食事でもしませんか?』
と言って来たんだ。俺も店が休みの日はすることも無かったし、久し振りだから
会って近況でも聞きたかったんで、すぐさま『OK』の返事をしたんだ」

大将は話を中断して、冷蔵庫からおつまみを持ってくると私の前に置いたの
です。私は黙って会釈をして、チビッとお酒を飲みました。
「待ち合わせの場所に少し早めに到着してしまった俺が見回したのだけれど奴
の姿は見当たらないんだ。けれども、まだ待ち合わせの時間には間があると思
って待つ積りになっていたんだ」
「そこへ40ちょいと過ぎにしか見えない和服の女が近づいてきて『お久し振
りです』なんて言うんだよ。俺はそんな女なんて知らないから『人違いじゃな
いですか?私は貴女を存じ上げませんが・・・』と言ったんだよ。これがいい女な
んだよ・・・」
「そいつは「人違いじゃありませんわ・・・」と言って艶然と笑うのだよ。艶然
とだよ!そして、店の名前や俺の姓まで口にするんだ。俺は自慢じゃないが、
ちょいといい女だったら名前は覚えておかないにしても、顔や体付きは良く覚
えているんだ。その俺が全く記憶に無いんだよ。これが・・・・」
「それで仕方なく『どちらさんで・・・』。相手に名前を尋ねたんだ・・・そう
したら、なんと待ち合わせしている男の名前を言うんだ!男の名前だよ。驚いた
ねェ・・・本当に驚いたよ」

大将はその時の驚いた様子を大きな眸をより大きく見開いて表現しています。
「そう言われれば背格好も顔つきが何処と無く似ているけれど、女顔だし咽仏
にしても無い。ましては声がちょっと低いが・・・と思われるが女声なんだよ
。これが・・・」
大将はその時の驚きがまだ続いているようで、盃を一気に飲み干しました。
「そこでは周りに人も居るし、立ち入った話はとても話せる雰囲気じゃない
から、近くにある小料理屋の2階の小部屋に行って話を聞いたんだよ」
「奴は、いや、今は女だから『あいつ』と呼ぼうか?。あいつは今までやって
いた自分の仕事に区切りが付いたので、これからは第2の人生を送りたいと
思ったらしいのだ。そう言うのだよ・・・。『そのための厚生年金の受給資格
も出来たから安心だ』とも言っていたなあ・・・」

  <大将の奥様>
 やっと私は大将のお話が男と女を間違えて言っているのでは無いと理解出来
ました。しかし、違う意味で驚くべきお話を聞いてしまったのです。
男だった者が女になって現れると言うのは小説、いえ、SF小説等で読んだ
記憶がありますが、そんな非現実的な話があるのでしょうか?いや、あるは
ずが無いと考えていたのです。大将は私を欺いているのだと考えて、そんな
ことは信じることが出来ませんでした。

「待っていろよ!」
私が疑っていることを察した大将はそう言い置いて店の電話を取り、「大至急
店に来い!・・・いいか、山ちゃんの為なんだ。お前も前に会ったことがある
だろう?そうだ!その山ちゃんだ・・・」と言って一方的に電話を切ってしま
っています。【続く】
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