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小説 舞の楽園 ( 私は薫 )


1        「 薫 」(5)
どうやら一方的な電話を奥さんにしたらしいのです。そしてどうやら、奥さ
んがお店にやって来るらしいのです。
そう言えば2度程しか奥さんにはお会いしてはいないのですが、大将は奥さん
に対してワンマン亭主であったことを思い出したのです。奥さんは大将の言う
ことを何でも「ハイ、ハイ」と聞いていたことを、私は思い出していました。
あんな可愛い奥さんを貰っていながら、大将は本当に偉そうにしているのです
。もう少し優しくしてやれば良いものを・・・と、その時思ったものでした。
その偉そうな大将に従っている奥さんを見ていると伝統的な日本の女性で、日
本女性の良いところを持っている人なんだなあ・・・と感心したのでした。

 程なく奥さんがやって来ました。大将の家はこの近くらしいのです。
「おい・・・今、山ちゃんにお前の話をしていたんだ!お前が男だったと言う
ことをな。山ちゃんはこの店になってからの付き合いなんだ。お前も知っての
通り、一番の親友なんだ」
大将は奥さんに向ってそう言っています。
奥さんは「お前が男だった・・・」と言われた時にはちょっと恥ずかしいのか
、私を上目使いに見て真っ赤になっていました。
「その山ちゃんが今居る状況と、以前のお前の眸が重なるような気になったの
で、ついついお前のことを話してしまったのだ」
「どうしても、俺の話を信じることが出来ないようだから、お前からも話して
やってくれよ・・・」
お店にお客が居ないこともあって、入って来た奥さんに大将は大声で言ってお
りました。

「エッ? この人・・・・何?この人が男?」私は驚いてしまいました。
どこから見ても女性そのものなんです。どうしても男性には見えないのです。
「主人がどの様なお話をしたかは存じませんが、この人の話は全部本当のこ
とですわ・・」
奥さんは顔を赤くしながらも私の眼を見据えてただそれだけを言って、眸を
下に向けて恥ずかしがっているのです。その声はちょっと低いと言えばそう
ですが、まるで上品な女性の声でした。
近頃は自分が、自分が、自分だけはと自分が前に出ようとする女性が多くな
っておりますが、まだ御主人を前面に立てるお淑やか女性もいるものだ・・
と感心したものです。
良く出来たひとだなあ・・・と思いました。

 「そうだろう!うちのカカアも認めているだろう?今は誰が見ても女だけれ
でもな。ところで、こいつ何歳だと思う?。間もなく60だよ。若くみえる
だろう・・・?」
私が奥さんの年齢が分からずに首を振ると、大将はちょっと嬉しそうに彼女の
年齢を披露していました。
 奥さんはお店にお客様が入ってくるのではと心配していたようですが、今日
は来そうにはありませんので、カウンターの中に入って食器を洗い始めました。
 
「さて、本題に戻ろうか・・・」
大将は中断していた、奥さんが男だったと言う話をまたし始めました。私は奥
さんの美しさと若さに驚いてしまって、声も出ません。【続く】小さい文字
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