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小説 舞の楽園 ( 私は薫 )


         「 薫 」(22)
 俺と薫は同じものを見て、同じ気持ちを共有出来たらしい。愛すると言う
ことは、お互いが身体を求め合うだけでは無しに、心が共有できるものらしい。
俺はそのことに気が付いて、嬉しくなって薫に話してやった。
「そうね!愛すると言うことは心を共有出来なければダメなのね。わたしの結
婚生活は心を共有することがあったかしら?妻は求めて居たかもしれないけど、
わたしはそんなことを考える余裕もなかったわ・・・」
彼女はやっと離婚の理由が判ったように呟いている。
「離婚の当初は落ち込んでいたのだけれど、考えてみると今はこんなに幸せな
気持ちになっているのは、結局離婚のお陰だわ・・・」
薫は「あなたが居て、あなたのお陰なのよ・・・」と言いたげな晴れ晴れとし
た顔で言っていた。
 
買い物も2人ですると意外と楽しいものだ。
2人で「あれはどうだい?」「これはどう?」なんて話し合っているうちに、時
間はあっと言う間に過ぎてしまっている。独りで買い物をすると相談する相手
もいないので、適当なところで妥協してしまう。そうすると、必然的に買い忘
れの物も多くなってしまうことになると思われる。
 今日の薫の買い物については、女と言うより主婦的な思考だった。
俺は何か必要なものを必要なだけ購入すればいいと思うのだが「何か安いもの
は無いかしら・・・あればストックして置けばいいのでしょう?」と言って食
料品なんかも小まめに見ては買い漁っているようなのだ。
そんな薫を見ていて、「これは良い主婦になるぞ!」と俺は思ってニヤリと笑っ
てしまったものだ。

 必然的に彼女の買い物の量は増えている。
主婦の薫には買い物を持たせるには可愛そうな気がして、俺は買い物を全部
持ってやっていた。
「ありがとう・・・嬉しいわ・・・」
すっかり女になっている薫は女らしく感謝の言葉を呟いてくれている。俺は
そう言われると、男の俺としてはこれから買い物に出る時は荷物を持ってやろ
うと言う気になって来るではないか・・・
俺は基本的には、女には優しい男なんだ。特に惚れた女にはな・・・。それに
荷物を持たせて筋肉が付いた女なんてゾーッとするからな・・・
 
薫の部屋に帰り付くと、直ぐに大将の携帯に連絡を入れたのだ。
「あたしが連絡を入れるわ・・・」
薫は自分から連絡を入れた方が大将も事情が解っているだけに、話が伝わり易
いと思っていたのではないだろうか。そう言っていた。
「こう云うことは、男がするものだ!」
俺は女の薫には電話などさせられないと思った。やっぱり男である自分がしっ
かりしてやらねばと思った。
俺の名前は義男だから義を通す男でありたいと思ったのだ。
俺は薫と居ると段々と男らしい男になって行くようだ。
 
「ああ・・・いいよ。お出でよ」
大将は開店前の忙しい時間に「お出で」と言ってくれた。店の方へ2人して
行った。【続く】
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