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小説 舞の楽園 ( 私は薫 )


        「 薫 」(38)
この1年は彼に勧められても、ビールをグラスに半分くらいに止めていたので
した。
この夜は楽しく飲めるはずだったのですが、お猪口に2杯ほどの彼の注いでく
れたお酒が廻り始めて、飲めなくなっております。もち論、千寿さんは男だっ
た頃もお酒を飲めなかった人だったようで、私と同じように顔を真っ赤に染め
ていました。
亭主達は「今日だけは酔ってもいいのだから、飲め!!」と盛んにけしかける
のですが、本当に飲めなくなっているのです。不思議です。
2人して主人達のお誘いを断るのに苦労しました。その代りに、亭主陣にお酒
を注ぐことで勘弁して貰ったのです。
 
「千寿さんは美しくって、それに若くって素敵です」
お酒を飲んで酔い始めると、家の人は幾度も幾度も千寿さんを誉めるのです。
本当にそうなのですがあまり彼が度々口走るので、私はちょぴり嫉妬をしてし
まいそうです。
「薫は若くなって、可愛くなったな。おまえには過ぎた嫁さんだ・・・」
大将は(いえ、今は家の人のお兄さんになったのだから、私にとっては義兄と
言うことになるのかしら・・・?」笑って言います。
「そうでしょう!いい女なんですよ。俺はベタ惚れなんですよ・・・」
家の人は酔っているのか冗談ぽく、しかし嬉しそうに言っているのです。
「千寿は俺がいないと生きてはいけないと言っているんだ。俺も千寿がいない
と尻抜けになってしまうよ・・・」
義兄さんもそう言うものだから、私達女は嬉しいやら、その言い方が恥ずかし
くって可笑しいやらで、千寿さんと眸を見合わせて笑ってしまいました。
男の人って可愛いところがあるんです。普段は女をリードしてとっても亭主
関白のように振舞っていても、女が何も言わなくても男の人の言うことを聞
いて付き従って男の人を立てていると、何時の間にか女から離れられなくな
ってしまうようなのです。
そう言うところなどは、孫悟空が暴れて飛び出そうとしているのだけれど、
お釈迦様の掌の外に出ることが出来ないと言うようなものです。
千寿さんとお付き合いしていると、そう言う機微が判ってしまうのです。
 
その晩は、亭主陣と女房達とに部屋を別れて寝ることにしました。
私達は部屋に帰ると、各々少し離れて並べられて敷かれているお布団を少し
寄せて眠ることにしたのです。
お布団に入っても私は興奮してか眠ることが出来ません。
「お姉さん。もう寝ていますの・・?」
千寿さんに隣のお布団から声を掛けていました。
「あらっ、お姉さんと呼んでくれるのね。嬉しいわ。じゃあわたしは「薫さ
ん」と呼ぼうかしら・・・?いいでしょう?」
私の小声での呼びかけに千寿さんも眠れなかったと見えて、直ぐに嬉しそう
にそう答えていました。
枕元の照明を落とした行灯の下で私は起き上がり、お布団の上に正座しまし
た。その姿に気付いた千寿さんも(いえ、今からはお姉さんと呼びましょう)
お姉さんもお布団の上に正座をして、私と向い合ってくれたのです。【続く】
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