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小説 舞の楽園 ( 私は薫 )


        「 薫 」 (40)
   この頃、フト思ったことがあります。私は嬉しいにつけ悲しいにつけ(今のところ
 悲しいことはありませんが・・・)凄く涙脆くなって来たのです。特に今回のように
 別離などしなければいけない時には・・・・です。
 些細なことでも驚いたりしまして、男であった頃とは比べものにならないくらい感情が
高ぶってしまうのです。良く言うならば、豊かで多感になったと言うのでしょうか・・
私の頭と言うか、脳の方も女性化が進んでいるのでしょう・・・か。

  翌朝、目覚めた後に顔を洗いに洗面所で大将に、いえ、お父さんにお会いしました。
私はちょっと照れ臭かったのですが、「お父さん。おはようございます」と挨拶をしまし
た。
「そうか。そうか。お父さん・・・か?」
大将、いえお父さんは大変満足したような顔をしまして、ニコニコと笑っていました。
家の人は怪訝な顔をしていましたが、後でお母さんから聞かされた『わたしの子供見た
いな感じがしていますのよ・・・」と云う話をしてあげました。
「そうだったのか・・・フム。薫にも良い両親がいたんだな・・」
彼はそう言って喜んでくれました。

< 変わって来た薫 >
   旅行の日から1年が過ぎようとしていた。
 薫も俺も大将の(いや、俺は兄さんだと思っている)住む町から遠く離れたところに住
 んでいるために、会うことも出来ないでいた。
 薫は常に和服を着て、自毛に付け毛をして髪をセットしており、薄化粧をしているんだ。
 毎日飲んでいる女性ホルモンの影響か、髭などは全く目立たなくなっており、薄化粧で
 も十分に女性であった。
 そう言えば、この1年電話代が馬鹿に多いのだ。
 無論、俺の携帯の料金も相当に掛かっているが、薫は毎日のようにお母さんに電話をし
 ているようだ。
 俺も表向きには「仕事の打ち合わせをするのだ・・・」と言ったことで、兄さんの声を
 聞きたかったので、毎日とまでは行かないが電話を掛けていた。

  早いもので、もう明日は俺の定年退職の日になってしまった。
 俺の会社は 「定年を本社で迎える」と云ったことが慣習になっており、この1年は
東京にある本社で過ごしていたのだ。
 退職をしたならば、その足で兄さんのいる町へ行こうと思っていた。そして、兄さんに
 は「そちらに向かうから・・・」と連絡を入れておいたのだ。
 ただし・・・薫には驚かしてやろうと思って、両親のいる町に行くことは内緒にして
 いた。
 兄さんのお店に行くのだが・・・『前からの常連さんでも、飲んでいるお客には薫は変わ
 ってしまって分からないだろう・・・』と俺は思ったのだ。よしんば疑われても『この
世の中には似た人が3人は居ると云うことだから、誤魔化しは効く・・』と俺は考えた
のだ。
 
 退職の前日、定年までの間の1年の間、会社が用意してくれたアパートに帰ると、薫
が何時ものようにイソイソと迎えてくれた。
そこで俺も何時ものように玄関で彼女を抱き寄せて、何時ものように帰って来た挨拶の
キッスをしてやったのだ。薫は何も言わないが、『俺が会社に行っている間は独りで寂し
いのであろう・・・』と思っている。
「ちょっと・・・話があるんだ」
鞄を置いて身体を離すと、薫は何時もとはちょっと違う雰囲気を察したのかちょっと不
満げな顔をしたが、素直に食卓テーブルの椅子に腰を降ろしている。
「明日は定年退職の日だ!早めに帰って来られる!旅行に行きたいと思っているので、準
備をして置きなさい!」
ネクタイを緩めながら、俺は言っている。そう云う時は自分でも『大将である兄さんに
似て来たな・・・』と思う言い方をしていた。

  「嬉しい・・・!」
俺が言い出したとたんに、薫は抱き付いて来てキッスを俺の唇と言わずに顔にしまくって
いた。
俺は普段は控え目な彼女に圧倒されてしまっていた。『これほど喜んでくれるとは・・・』
おもってもみなかったのだ・・・
『俺が会社で部署が変わって忙しくなって、薫を構ってやらなくなったので、彼女は余程
寂しい思いをしたのだなぁ・・・』と反省しきりであった。(続く)
      
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