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小説 舞の楽園  ( スキャンダル )

        スキャンダル (2)
 「そうだ! 帰る前にウィスキーのストレートでも作って呉れないか?ここ
に来ると高級モルトが飲めるんだよな・・・」
隣の応接室に入った岩城は、豪華な革張りのソファーに身を沈めて言った。
義樹は帰ろうとしたが会社の上司で、次期役員候補の噂がある岩城総務部長に
そう言われては、帰るに帰れなくなっていた。
折角羽織った明るい紺色の背広を脱いで、ストライブのワイシャツ姿になり、
バーのカウンターの中に入って、ストレートのウィスキーを作ってチーズの
盛り合わせと共に、岩城の座っている応接セットまで運んだ。
「いや、ありがとう。君も1杯どうだ! いいものを今から味わっておくのも
大切なことだよ」
岩城は恩着せがましく言って、モルトを咽に流し込んでいる。
「では、1杯だけいただきます」
あまりお酒に強くない義樹は、折角、岩城総務部長がそう言ってくれるのだか
らとウィスキーの薄めの水割りを作って、岩城の反対側のソファーに座ろうと
する。
「ここに座りたまえ!!」
岩城は自分の座っているロングソファーの隣を叩いて命令した。
「はい」
<この部長の親愛の情かな?>
と思いながら拒否する理由も見当たらず、岩城部長の右側に腰を下ろした義樹
である。
「如何だね、慣れたかね?」
岩城は義樹に持参させたウィスキーを煽ってグラスを置くと、義樹の薄い紺色
のスラックスの膝の上に右手を置いた。
義樹はハッと息を飲んだ。しかし、相手は会社の上司である。
身体を硬くするしか方法はなかった。
しかしそれは、義樹をものにしようと思っている岩城には、承諾ととれるほど
の動きでしかなかった。
「いいだろう・・・?」
岩城は今まで男を抱いたことはなかった。しかし、幸田専務から言われている
「男好きの岡崎常務のセックススキャンダルを暴くのだ」との指令を遂行するた
めには、義樹をものにするのが一番手っ取り早いと考えたのである。
もし、近い将来常務が義樹に手を付けて義樹が常務派に入るとしたらば、内部
スパイとして活用は十分に考えられる、メリットは大きいと踏んだのだった。
(続く)
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