小説 舞の楽園 ( 熟れた男達 )
- 2019/04/13
- 01:08
熟れた男達 < 15 >
今、俺は睦子と一緒に暮らしている。
そりゃ喧嘩もするさ。喧嘩と云うより言い争いだな・・言い争いの原因はだいたいは、
俺のタバコの火の不始末が原因だな・・
俺はタバコを喫うが、タバコの火の始末だけはダメなんだ・・吸いぱなしで消さないで
灰皿に残している。これは俺の悪い癖だ・・
睦子はタバコを喫わないからだと思うが、いつまでも煙が出ている灰皿を「煙が目に染
みるわ・・」ととても嫌がるのである。
今も、「うるさい・・」って怒鳴ると女のようにメソメソと泣き出したんだ・・
それで・・俺は腹が立ってプイと家を出て、久しぶりに遊びに行ったんだ。
好きなタバコのことで泣かれてしまってムシャクシャしていた俺は、浅草まで出掛け
たんだ。
男に目覚めてしまった俺はインターネットで知った男宿に、今夜は泊まろうかと思
っていたのだ。睦子に心配をさせるのも・・薬だと思ったんだ。
だけど・・男に目覚めたと云っても、そういう旅館に入るのは初めてだし、時間も早
かったので、旅館の前にある喫茶店で頭を落ち着かせてから入ることにしたんだ。
流石にそのような旅館に入るのは恥ずかしかったんだ・・
窓際に座ってボンヤリと外を見てタバコを吹かしていると、睦子よりも年上と見
えるお爺さんが前を行ったり来たりしているではないか・・
その旅館の前を覗き込んでは歩き始めて、また戻って来ては覗き込む。そして通り
過ぎることを繰り返している。
年恰好は上らしいが、小柄で上品な雰囲気が何処となく睦子に似ている・・
俺がこちら側の喫茶店から見ているのを知らない風だった。
『ハハア。こういう男宿に来るのは初めてなんだ・・な』
俺は自分のことを棚に上げて、そう考えた。
見ていると2回から3回、そういう動作を繰り返しているではないか・・
俺は喫茶店を出て、その爺さんに声を掛けた。
「お爺さん。この男宿に入りたいの・・?一緒に入ろうか・・?」
『俺はこの旅館のことなら知っているんだ・・。だから・・お爺さんのことも分
かるんだ・・!』と云うことを言外に込めています。
お爺さんはギクリとしました。
「俺もお仲間なんだよ。初めてなのかい・・?」
顔を紅に染めて下を向いたお爺さんを『可愛いものだ・・』と思いながら俺は言
った。
「俺もここは・・初めてなんだよ・・一緒に入ろう・・よ」
彼は嬉しそうに微笑して、黙って頷いた。(つづく)
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