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小説 舞の楽園 ( 熟れた男達 )

   
         熟れた男達  < 30 >
   「イヤァ・・帰って・・」
 扉は開け放されて、正子は顔を覆ったまま泣き叫んでいた。その悲鳴は男のものでは
 なく、女性そのものの悲鳴であった。
 「お父さん・・どうして・・」
 薄い透けて見えるピンクのネグリジェを素肌に着て、化粧台の前に座って化粧をして
 いた睦子が、玄関の揉め事に何事かと・・顔を出したのはその時だった・・
 玄関に正子を若くした男が立っているではないか・・。正子とソックリであり、どう
 みても息子である。
 “ガタン”
 顔を隠して逃げようとする正子がよろけて下駄箱に当たって大きな音がした。まだ手
 は放されてはいない・・
 実は、2階に寝ていた俺もその音で目覚めたのである。

  睦子は思わず駆け寄って、正子を抱き抱えていた。
 突然女が現れて「正子さん。大丈夫・・?」と言って父親に抱き付いて来たので、
 息子は2度吃驚してしまった。
 その女は全裸の上にピンクのシースルーのネグリジェだけで、大きなオッパイが透け
 て見えるのである・・
 「帰って・・帰って・・」
 もうすっかり女の媚態が身に付いてしまっている正子は、それでも恥ずかしいのか
 顔を覆ってそう呟いている。 
 「お父さん・・」
 息子は異常な光景に自失呆然だった。

  流石に年の功であろう・・睦子が我に返るのは早かったようだ・・
 「正子さんの息子さん・・なのね・・?取り乱してゴメンナサイ・・ね。ここじゃぁ
 なんだから・・入って・・」
 しゃがみ込んでイヤイヤと頭を振る正子を抱き抱えながら、睦子は覚悟を決めたよ
 うである・・『正子の恥も。そして自分の恥も晒さなければ、この息子は納得しない
 だろう・・』と思ったのだ。
 それに・・玄関も開け放しでここで騒ぎを起こしたならば、ご近所の人が如何したの
 か・・と見にくるのではあるまいか・・と考えたのだ・・
 それは・・ヒッソリと生きなければならない自分達の望むところではない・・と気
 付いたのだ・・

兎に角上がって貰った。
 正子の息子は40台前半の通産省に勤めている官僚で、課長代理をしていると言って
 いた。チャランポランな俺とは異なって、外見もキチンと背広を着た紳士的な人物で
 あった。
 流石に父親の変わりように蒼醒めている息子を食卓テーブルに掛けさせて、睦子は
女ように泣いている正子の背を抱えて息子の対面に座らせた。
「こんなハシタナイ恰好で・・失礼いたしました・・」
睦子は自分がシースルーのネグリジェのままであったことを、初めて気が付いた
ようだ・・(つづく)
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