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小説 舞の楽園  ( カミングアウト )

   
         カミングアウト (そうすれば家族) < 33 >
   「ええ・・でも・・心細いわ・・」
 「大丈夫だよ!そうだ・・俺も一緒に行こう・・!夫だと言って紹介してくれよ・・」
 「『案ずるより産むが易し・・』と云うじゃないか・・そうしよう・・!」
 余りに心細さを漂わせる私を見て、夫はそう申します。
 もう何もかもが吹っ切れたようすの優しい夫です。
 「何だ・・?そんなに泣くなよ・・化粧が落ちるぞ・・」
 和樹様の言葉に「あなた」と言ったきり後の言葉が出なくって、涙に繰れる私を抱き
 締めてくれています。
 女になった私は涙腺が緩くなってしまったようで、直ぐに涙がでるのです。

  下階のお疲れ様です。お惣菜店が開いたようです。パートのオバサン達の声が聞こ
 えています。
 泣き腫らしたお顔をまたお化粧を施しまして、妻が残したブルーのノースリーブの
 ワンピースを着た私とポロシャツに白いパンツを履いた和樹様とが階段を降りてお店
 に入りました。
 ウジウジする私の背中を夫は押してくれています。

  「おはようございます」 
 「あらっ・・和樹ちゃん。どうしたの・・?」
 入って行くと4人のパートさん達が振り向きました。何時もは3人でお店を廻してい
 ますが、今日は休み明けと云うこともありまして、4人全員が揃っているのです。
 1番年上の野上さんがノースリーブを着た女の背中に手を廻している和樹様に聞いて
 います。
 パートさん達は4人共主婦で、この街の住民で2人が私より年上で、1人が私と同年
 配で1人が40代半ばと云ったところです。
 年上の3人が和樹様が養子に来る前からここで働いていまして、4人共若い和樹様を
 大層可愛がってくれていました。

  「うんっ・・俺の嫁さんを紹介しようと思って・・」
 私の背中を押して前に出しながら、内心は如何か判りませんでしたが・・平然とした
 様子で申します。
 しかし、おばさん達に対しては少し甘えたような口ぶりだったようです。
 驚いたパートさん達が集まって来ます。
 「さあ・・頼子。僕の嫁さんだ・・!」
 「アッ・・社長さん。社長さんなの・・?」
 集まったパートさん達の前に押し出された私を紹介されるよりも早く、皆さんが気付
 いたのです。
 完璧にお化粧をしていようと、頭にはウィッグを冠って、ワンピースを着ていようと
 永年一緒に仕事をして来たパートさん達です。
 それに・・目です。目だけは付け睫毛をしていても誤魔化せません。

 「えt・・どうして?社長さんが・・?」
 パートさん達は口を揃えて言い、騒然となりました。私は死にたいほど恥ずかしかっ
 たのです。
 当然ですよね・・
 高校3年生の男の子が・・それもパートの皆さんの息子よりも年下で、可愛がってい
 た男の子が、「嫁さんだ・・」と言って女の人を連れて来たのです。
 お化粧をして若造りをしていると言っても、明らかに自分よりず~っと年上の女の人
 を嫁さんと言って紹介しているのです。
 そして・・その女の人が・・今まで男性であった皆も知っている社長なのです。
 それも・・義理とは言え、父親であった男性の私なのです。(つづく)
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