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小説 舞の楽園  ( カミングアウト )

   
         カミングアウト (そうすれば家族) < 37 >
   「・・で、今は幸せ・・?」
 1番・・と言っても40代後半に入った佐倉さんが、非常に興味深げに私の顔を覗き込みま
 す。
 「ええ・・幸せですわ・・」
 彼の顔を見上げて、小さな声ながらしっかりと答えました。
 「幸せ・・さ!」
 彼の矢張り小さな声が聞こえたかと思うと、肩に置かれた彼の手に力が加わったのです。そ
 して・・いきなり抱き寄せられて、上を向いた唇を奪われてしまいました。
 今度は舌が口中を舐め廻してデープなキッスでした。
 パートさん達の前でのキスに、私は恥ずかしくって抗しようとするのですが、背中に回った
 彼の手の力が強くって如何にもなりません。
 「まぁ・・お熱いの・・ね」
 「可愛がってもらっているのね・・」
 いきなりのキスで動揺している私の後ろで、パートさんの声が聞こえています。その声は
 私達を非難している声ではありませんで、応援しているように聞こえます。
 パートさん達も中年になると、人前でなくとも、キスどころか手を繋ぐことすら無いので
 す。
 後日のお喋りに聞かされたところでは「SEXなんか皆無よ・・」と言っておりました。

  パートさん達の羨ましそうだけれども、決して非難はしていない声をバックにキスは続
 きます。
 背中に廻された手の力が緩んだところで、やっとキスから逃れました。
 「イヤ~ァ・・こんなところで・・。恥ずかしい・・わ」
 「悪い・悪い。頼子が余りにも可愛いもので・・つい・・」
 軽く睨んだ私に彼はそう言って片手を上げていますが、本当に悪いとは思っていないよう
 です。
 小さくなってパートさん達の方を伺いますと、2人のパートさんが赤くなった頬に手を当
 てていました。
 「ゴメンナサイ・・」
 謝ると、また拍手が起こりました。完全に私が女性に溶け込んだ瞬間でした。

 「じゃぁ。僕は行くよ・・」
 「あらっ・・もう・・?」
 「うんッ・・ちょっとね・・」
 夫も恥ずかしくなったのでしょう、そう言ってお店の裏側のドアーを開いています。
 「気を付けて行っていらっしゃいませ・・」
 っそう私が言うと投げキッスを返して来てくれました。
  
「お熱いところを見せてもらって・・ゴチソウサマ。私達も興奮したわ。さぁ・・開店の
準備をしましょうよ・・」
 野上さんの一言で皆さんは開店の準備を再開します。
 女として認められた私も看板を出して、忙しい日々が始まりました。
 カミングアウトは成功したようです。
 『若い彼がカミングアウトに加わって下さったからですわ・・』と私は思っております。
 精神的にも以前よりズ~ッと逞しくなった彼のお陰です。彼には幾ら感謝しても足りない
 くらいの気持ちです。

 これからも「世間の人には顔向けが出来ない女」と言われるでしょうが、和樹様と私の2人
 3脚で頑張っていこうか・・と思っております。
 どうか・・・これをお読みになさった皆様も『こういう人生もあるのだ』と言うことを分か
 って頂きたいと思っております。
 そして・・陰ながらで結構でございますが、応援して頂けたらと思います。(完)








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