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小説 舞の楽園  ( 盗み聞き 1 )

        盗み聞き  -1
(1) ワンルームの賃貸テラス
渡辺遥(ゆう)は27歳、独り身。昨年の春から都立国分高校で教鞭を取っ
ている数学教師である。
彼が居住している3階建の賃貸テラスはワンルームのマンションだが、低くな
った高速道路に面して建てられていて、1階部分にだけは小さいながら専用庭
がついている。
そのテラス住宅の1階には3世帯が入居をしており、遥の借りている部屋は
1階の2つの世帯に挟まれた真ん中にあった。
遥の部屋の右隣は横尾さんと云う夫婦者が住んでいる。
奥さんの名前は亜紀と言って、時々遥の部屋に『実家から送って来たのよ』と
言っては新鮮な野菜やフルーツを持って来てくれるので、遥は良く(・・でも
ないか)知っている。下膨れをした人懐こい顔をした日本的な美人で歳は30
前半だろうと思われる。子供は『欲しいのだが、まだなのよ・・』と言ってい
た。
亜紀の夫の雅史は30代後半で見るからに真面目でちょっとハンサムな銀行員
と云う感じがしている。
朝の出勤時間が違うためにか通勤で会うことは無かったが、日曜日等に月に1
~2度ぐらいは彼に会って目礼をする程度の知り合いだった。
遥の左側はこれまた独身の男性で表札では大谷守と云う名前らしかった。
もっとも、このワンルーム賃貸マンションの居住者は独身の男性や比較的年を
召した女性がほとんどではあるのだが・・・
大谷守と云う男性は髭を生やしていて、目がギョロッとしていてちょっと見に
は怖そうな顔をしている。猫背で何時も汗を掻いてカメラの機材を担いで帰る
のを見かけることもあった。
フリーのカメラマンらしくって帰宅も出勤も時間が決まっていないようである。
だが、出勤時などには亜紀の夫の雅史さんよりは不思議と会うことが多い。
会えば挨拶をする程度であるが、30過ぎの髭面のせいか不潔に見える。そう
云う男は余り好きではなかった。・・・と言うよりも、遥は目のギョロリとし
たその男は嫌いだった。

 右隣の横尾夫妻の夫の雅史は縁無し眼鏡を掛けていて身体の線は細いが、真
面目そうなところは遥も好意を抱いていた。
しかし、夫妻の夜の営みの声を聞いてしまってからは、彼らの性生活の方に
興味が向いてしまっていた。
それは遥がこのマンションに引っ越してきて3ヶ月位した、梅雨の中休みのあ
る晩のことであった。
その日は実務者研修で疲れて帰って来て、昼間は人気が無い為にモヤッとした
室内の換気をしようと専用庭のある方のガラス扉を開けた時のことであった。
「ううっ・・・そこっ・・・亜紀、感じるぅぅ・・・」
隣の夫の雅史の呻き声が遥の耳に聞こえて来た。続いてシュパッ、シュパッと
淫靡な音が聞こえて来た。
<オシャブリを・・・してるんだ!!>
何故か慌ててガラス扉を閉めてしまっていた。
教員の遥にしてもエッチなビデオなんかで、もちろん、その音は知っていた。
(続く)


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