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小説 舞の楽園  ( 盗み聞き 9 )

        盗み聞き  -9
 「亜紀!出すぞ!・・ううむっ、出る!!!」
雅史の影が激しく動いて、止まり、部屋の中では男らしい声が聞こえて来た。
「ああ・・うううっ」
遥も右手で操っていた張り型を止めている。
亜紀の喜びの声に合わせて、遥もイっていた。

 (6)左隣の大谷の来訪
 次の日、渡辺遥は学校に行って、帰って来ると机に向っていた。少し早いと思っ
たのだが、9月の中間テストの答案の原稿を作っていたのである。
その時期は体育祭等の用意とかで何かと忙しくて、原稿を作る時間が取れないの
が現実であるからだ。
“ピンポン、ピンポン”
8時を過ぎた頃に、玄関に取り付けてあるドアホーンが鳴った。夏とはいえ辺り
は暗くなっていた。
「誰かしら・・・?」
この住宅に引っ越して来て以来訪れて来たのは両親とお隣の亜紀さん以外には
いない。不思議に思って、思わず女言葉を呟いてしまったほどである。
玄関に立ってドアーの覗き穴スコープに目を当てて見ると、左隣の独身のカメ
ラマンらしい大谷が髭面の汚らしい顔をして立っていた。
髭は朝当たるのらしいのだが1日の仕事を終えて帰ると、うっすらと生えて青
くなるらしい。遥は自分が髭も生えないので、髭面の男性は嫌いであった。
しかし、隣の住民である大谷は無視出来ない。
「どんなご用件でしょうか?」
掛けてあるドアーチェーンを外してドアーを開けながら、訝しげに遥は聞いて
いた。
大谷は髭面を歪めてニヤリと笑うと、嘗め回すように遥を見ている。
「ちょっと入れては貰えないか?あんたにプレゼントがあるんだ!」
大谷は押し殺したような低い声で言っている。
『入られたら困ります』と言う前に、いつもは猫背にしている背中をピンと伸
ばして大谷は室内に入り込んでいる。
履いていたサンダルを脱捨てて、ズカズカと遥の1DKの部屋に上がりこんで
しまっていた。遥の部屋の2人掛けの食卓テーブルの前に辿り着いた大谷は
ガラス窓を背にして立っている。
遥は大谷の勢いに気押されて声も出ない。
後ずさりしている遥の目の前に大谷は持っていた茶色の大きな封筒を示した。
「これをあんたに見せようと思ってな・・・」
ニヤリと髭面を不気味に綻ばせて、遥が今まで作っていた答案の原稿を退か
した机の上に置いた。しかし、ギョロリとしたその目は笑ってはいなかった。
「何でしょうか?見せたい物って・・・?」
遥は慌てて机の上にある答案の原稿を片付けながら聞いている。
「座らせて貰うよ・・・」
黒いTシャツと灰色のズボンの大谷は断ったことは断ったが、もうすでに2
脚しかない椅子の片方に座っている。
「まあ、見てご覧よ!言っておくが、これは俺以外には誰の目にも触れさせて
はいない。今日の昼間、ネガを焼いたばかりなんだ」
言いながら大谷は茶封筒の中から6~7枚のキャビネ大の写真を取り出して並
べている。(続く)
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