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小説 舞の楽園  ( 盗み聞き -17 )

        盗み聞き  -17
 暫くの沈黙の後で、遥は言いにくそうに、それでも自然と女言葉で切り出し
た。
このことを聞いて置かなければ、遥は返事が出来なかった。これからの遥の
人生を決めてしまう大切なことであった。
「なんだい?」
大谷も遥の真剣な表情を見て居住まいを正している。
「1つは、今日だけでは無く・・・ず~となんですね。女になるのは・・」
「わたし、300万と云う大金はどうしても用意出来無いのです。それから
勤務先の学校に写真を送られるのも困るのです。それで・・・」
白い貌が蒼くなっている遥は息を切った。人間と云うものは、真剣になると
涙なんかは出ないらしい。
「それで・・・?」
唇を噛み締めて何かを耐えている遥をじっと見つめていた大谷が先を促した。
「それで・・・もう1つの方法を・・・あなたの女にして頂く決意を固めた
のです」
大谷はもう先を急がせるようなことはしなかった。
「今日は・・・今日のあなたはとっても紳士的なんですもの・・・わたし、
あなたの女になってもいいと思っていますのよ」
遥は恥ずかしいのであろう顔を真っ赤にして、何かに取り付かれたように
しゃべり始めていた。
大谷は黙って聞いているが、遥の話はいい方向に進んでいると思って、内心
は喜んでいる。
「昨晩も考えたのですが、わたしの人生を左右することになると思うのです。
そこで、お聞きしたかったのよ」
<流石は一流受験校の数学の教師である、筋を通して話を進めている>と感心
していた大谷は我に帰った。
「1つ目の、あなたのものになるって・・・今日だけではないのでしょう?」
再び遥は聞いている。
「うん。・・・できれば、ず~と俺の側に居て欲しい。俺の妻になって欲しい
んだ。もし、許して貰えるならば結婚してもいいと思っているのだ」
「今度のことは乱暴だった。悪かったと思っている。しかし、・・・俺の求婚
だと思ってくれないか」
「貴女を脅したことは悪かったと思っている。だけれども・・・ああするより
は、貴女に近づく方法は見当たらなかったのだ」
そう云うことを言う大谷は本当は正直な男だと遥は思った。自分を過大評価
してくれていると思いながらも、嬉しくなり大谷を有り難く思えてきた。
そんなに想われているならば、大谷の言うように大谷の女に、いや奥さんに
なるのも悪くはないんじゃないかと思えて来ている。
「もう1つあるのよ。わたしが女になったらば、今お勤めしている学校の方
は如何なるのかしら?。まさか・・女装して学校に行くなんて・・考えられ
ないわ。辞めるしか方法はないとおもうのよ」
遥は昨晩から考えていたことを思い切って言ってしまっている。それも自然
な女言葉であった。(続く)
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